狐の嫁入り

小説創作ブログ! のつもりでしたが、なんかだいぶ違う気がします……

湊かなえ「未来」は、作者の気迫に圧倒されるもの凄い小説だ

こんばんは、ミズノです。

 

先月は芥川賞直木賞の発表でしたね(遅い)。私が浜松に移住してきて二年目、恩田陸の「蜜蜂と遠雷」が直木賞本屋大賞を同時受賞しました。浜松ピアノコンクールを題材に取った小説ということで購入したのですが、候補作が選ばれる前に購入していたということが、私の中のささやかすぎる自慢の一つです。

湊かなえ「未来」も、私のささやかすぎる自慢の二つめになるかなあとか思っていましたがなかなかそうはうまくいかないようです。が、本作は非常に力のこもった力作で、非常に読み応えのある本でした。

未来

未来

 

内容と全然関係ないあれですけど、装丁が素敵ですね!

 

①私の湊かなえ暦 

実は私、湊かなえの作品はこれが初です……率直に言えば買えば本人に会えると宣伝されていたので、それで買いました。握手商法です。

内容は噂の通りでした。

イヤミスの女王」の名の通り、自分勝手な大人が子供や善良な人たちを傷つけていく展開が延々と続きます。いじめ、虐待、家庭内暴力、放火、売春……人の心を深くえぐるエグい展開が、大人子ども関係なく容赦なく降りかかります。それなのにページをめくる手を止めさせず、この私をして一晩で一気に読み切らせてしまう筆力。

ああ、こういうことか……と深く納得しました。

 

②未来からの手紙

そんな鬱々した展開が続く中、暗闇の中に差し込む光のように、作中のあちこちに現れるのが「未来の私からの手紙」です。ひどい目にばかり合う小学四年生の主人公(とその友人)に、二十年後の自分から手紙が届きます。その手紙はポストに投函されており、そこには、二十年後の二人は幸せに生きている、だから力強く生きろ! みたいなことが、優しく成熟した大人の筆致で描かれているのです。

賢い二人は悪戯を疑うのですが、未来から送られてきた証拠として「ドリームランドの開園三十周年記念グッズ」が同封されており、これは物語のメインとなる年には絶対に手に入りえないものです。二人は疑いつつも、心のどこかで幸せな未来を信じることになります。

タイトルにもある通り、この手紙は、希望のない世界で主人公たちを応援してくれる唯一の救いです。「イヤミスの女王」として知られる湊かなえですが、本作で新しい境地を開いたと宣伝される一番の理由はこの設定にあります。二人は疑いながらも、最後の最後までこの手紙を手放そうとはしません。人は希望や幸福を素直に信じられないものですが、いくら否定していたところで、どうしてもそれを信じてしまいたくなってしまう生き物のようです。

 

③ だが、カラクリを想像するのは容易

本作はSFやミステリーではないので、不可思議な力が物語を動かしたりはしません。では、未来からの手紙は? 今の時代では絶対に手に入らないはずの記念グッズは? 私は見抜けませんでしたが、勘のいいひとなら結構あっさりわかってしまうかもです。

 

④本作の魅力

エグいけれどどうしてもページを繰る手の止まらない怒涛の展開に、未来から手紙という道具を配置することで、タイトルの通り「未来への希望」も感じさせる、ちょっとだけいい読後感になっているところです。それが話の構成的なところ。それ以外はというと、なにより、

 

書き手のとんでもない気迫を感じる筆致。

 

に尽きると思います。

ホテルにこもって一気に書き上げたという本作。その時の勢いが読んでいるこちらまで力強く伝わってくるものすごい作品でした。

……作者本人は「最後まで読んでもらえるか不安だった」とのことですが、いえいえ! 最後までわくわくしながら読ませていただきました!

 

私は、無駄な設定なく綺麗に落ちる短編が大好物だったので、これでもかとばかりに濃密な描写や衝撃的なエピソードを配置する小説はあまり好んで来ませんでした。

宮部みゆきは読んでいましたが、生々しい描写よりも話構成のわかりやすさにひかれていた部分があります。

以前記事に書いた「歪んだ波紋」もディテールをしっかり描いた「大人の」小説です。私は今まで、きれいな世界がきれいに描かれたものばかりを好んでいたようです。

 

これからはもうちょっと「大人」の小説にいろいろ手を出していこうかなあ……とか思ったりします。

でも、この記事を書く直前の私は、久しぶりに読んだ「古典部シリーズ」で、折木と千反田の会話が楽しい……とか思っていました。ライトミステリ・ライト文芸最高……

 

……両方楽しめるようになれたらいいなと、苦し紛れにそう結論しておこうと思います。

 

今更ですが、サイン会に行って握手とサインをもらいました(……現物の写真がない……)。その時に一個衝撃を受けたのが作者の人柄です。

私はどんなこわもての人かとある種の期待のようなものさえ持っていたのですが、予想は見事に裏切られました。

本人は、粗品を用意してくれたり、待っている間の読み物を用意してくださったり、作風の感じを想像していると衝撃を受けるほど、穏やかで優しいな方でした……なんとツーショットもOKしてくれたという……

作風と作者の人柄は、実は相互に補完するような対照的なものにあるんじゃないか? とか、勝手に考えたりしている次第です。