狐の嫁入り

小説創作ブログ! のつもりでしたが、なんかだいぶ違う気がします……

「たまこラブストーリー」こそが史上最高の恋愛アニメ映画であると私は確信している

巷には恋愛物語は腐るほどあふれている、が、その中で一つをおすすめするなら、私は迷わず「たまこラブストーリー」をおしたい。

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昨日「二十世紀電氣目録」を読んで、それと「聲の形」で河井さんが燃えに燃えたことをネットで知って、この作品に死ぬほど感銘を受けたことをふっと思い出した。私は「たまこラブストーリー」こそが最高の恋愛映画だと思っている。その魅力を余すことなくここで紹介したい。

 

 

0.前置き 

2016年11月、私は秋葉原UDXシアターにいた。何を隠そう、「たまこラブストーリー」を映画館で観るためだ。もっと言えば、「もち蔵、大好き!」からの暗転シーンを映画館で体験するためと言っても過言ではない。

率直に言って内容は最高だった。その感動とともに、私は、東京に住む友人と夕飯を食べに行ったのだ。御茶ノ水駅のあたりを、ふらふらしながら話をした。

友1「お前さ、静岡から東京まで何しにきたの?」
私  「え? 映画を見に」
友2「何を?」
私  「たまこラブストーリー
 私たちの間の空気が凍った。
友1「え、そのためだけに?」
 頷く。
友2「馬鹿だなー糞つまんないやつだろ」
 私はきょとんとしていたと思う。
友1「なんだっけ、あれだろ」
友2「爆死マーケット」
 この辛らつな物言いに私は言葉を失った。
友1「そんなんより○○見ろって(←なんだったか忘れた)」
私  「いや! たまラブ最高だろ!」
 反論にならない反論を口にする私を、友1は憐れむような眼で見た。
友2「ほら、あれだろ。つまらんアニメでも我慢して最後まで見れば面白く感じる。『勇者の剣』現象だって」

 ゲラゲラ笑う友人たちを前に、私は友との絶縁を本気で考えたものだ。
 私は反論したかった。私がたまラブを溺愛し始めたのは映画版がきっかけなのだ。「聲の形」が公開された当時、山田尚子監督作品ということで再放送されたもの。勇者の剣ではない。
 それからテレビアニメを視聴し、そして映画を数周した。ブルーレイも買い、サントラも買った。その後プライムビデオで見られるようになったことは喜ばしい限りだ。 

テレビアニメを前提にした映画の作りには多少の違和感を覚えるが、ストーリー全体の構成に影響を与えるものではない。
当時の私はここまで言われると予想しておらず、咄嗟に言葉が出てこず友人を説得することはかなわなかった。けれど、今その時のことを思い出すたびに悔しい思いにかられる。あれから時間がたち、考えをゆっくり整理できるようになった今こそ、あの時に主張すべきだったことを声を大にして言いたい。

たまこラブストーリー」こそが史上最高の恋愛アニメ映画だと私は確信している、と。

  

1.シンプルなストーリー

 この映画の素晴らしいところの一つ、そのストーリーのシンプルさにある。
「男の子の勇気を振り絞った告白に、初めての感情に戸惑いながらも、友人や周囲に助けられながら女の子が返事をする」それだけだ。

業界トップのトヨタ自動車が全方位戦略で大衆に広く受け入れられるスタンダードな車を世に送り出すのと同じく、アニメ作画でトップを走る京都アニメーションだからこそできるのであろう、奇策に走らない「王道のストーリー」をとんでもなく面白く見せる作品。特に、もち蔵がたまこに告白する鴨川のシーン非常に美しく、そのシーンだけ切り取ってご飯を何杯食べられるわからないほどだ。告白するかどうかでもだえるもち蔵の物語がいったん途切れ、愛の告白というバトンを押し付けられあたふたするたまこの物語が始まる。この切り替えが非常にいい。その重要なタイミングで配置されたシーンには、相当な力を入れているに違いない。だからこそ、誰の印象にも残るシーンになっているのだ。 

 

2.巧みな比喩と伏線

 二人の間を結ぶ「紙コップの糸電話」、たまこが実家の仕事を好きになり、そしてもち蔵の思いに答える決心をさせるきっかけにもなる「お餅が喋る」といった、登場人物の絆に関わる小道具もいい感じだ。コミカルでかつほのぼのとした設定から、登場人物たちの内面がほのかに浮かび上がる。
メインの二人だけではない。父から母に送られた「自作のラブソング」等、二人を見守る大人/友人たちのことも好きになれる仕組みがそこら中にちりばめられている。

 

3.「変化」を力強く肯定する前向きなテーマ

この作品の感動のメインは「変化」だと思っている。友人との関係、両親との関係が、今のままでずっと続けばいいと願っているたまこに、視聴者は共感を禁じ得ないだろう。そこに、恋煩いしているもち蔵が特攻を仕掛けてくるのだ。今まで穏やかに続いていた日常が壊れそうになり、たまこは揺れる。けれどその変化を受け入れる覚悟をし、最後には、旅立つもち蔵の後を必死に追いかけてまで、自分の思いを伝えようとするのだ。
日常アニメの登場人物は変化しない。そのままの日常、そのままの人間関係が永遠に続く。サザエさんちびまる子ちゃんこち亀けいおんなんかだろう。これこそが、フィクションの持っている力の一つで、変わらない世界をそのまま人の想像の中に保っていける。そこで作品を享受する我々は作品の中に入り込み、変わらない世界で安心した気持ちになることができるのだ。
「たまこマーケット」はそういう作品だった。最終回、仲間の一人がいなくなるかと思ったら、妙な事情でもとの状態に戻ってしまう。結局何も変わらない。最終回が終わった後も、たまこ達の日常はずっと続いていることになっていたのだ。だからこそ、視聴者は安心して、「たまこマーケット」という作品世界の中で癒しを得ることができたのだ。
しかし、現実はそうではない。我々は毎年一つずつ年を取り、誰かと出会い、別れ、昨日まで名前も知らなかったと誰かと知り合い、絆を作っていく。
テレビアニメという目くらましで見ないようにしていた現実を、これもまたアニメの中で突き付けてきたのが、映画「たまこラブストーリー」なのだ。この作品を通して、登場人物はみな一つ変化を遂げる。思いを遂げたものもいれば、挫折したものもおり、「たまこマーケット」の最終回では永遠に続くと示唆されていた日常は、「ラブストーリー」で幕を閉じる。ほのぼのとした日常を求めていた視聴者に、この結末はなかなかこたえるものになる……はずだった。
けれど、この作品は誰を傷つけることも脅したりすることもない。純粋なラブストーリーと美しい作画、そして仲間たち。たまこともち蔵の周囲の仲間たちは、二人の恋路を応援するのと同時に、この作品を見る者の変化を、前向きに肯定してくれているのだ。

 

4.まとめ

王道で穏やかなストーリー、共感性が高く魅力的な人物たち、美しい作画、こちらの不意を衝く衝撃的なテーマ設定、そして、人生の変化を肯定する前向きな主張。もう一度言おう、私は、「たまこラブストーリー」こそが最高の恋愛アニメ映画だと確信している

 

実は賞も取ってて

archive.j-mediaarts.jp

映画館でリバイバル上映するようです。凄い。

www.dreampass.jp

 


……最後までお付き合いいただき感謝します。