狐の嫁入り

小説創作ブログ! のつもりでしたが、なんかだいぶ違う気がします……

プロット分析『吉祥寺の朝比奈くん』

※ご注意

本記事はテーマとなる作品の内容を分析し、自身の創作に活かせる設定や考え方を抽出するものです。ネタバレ等ありますので読まれる際にはご注意ください。

記事の誤りの指摘やご意見等は歓迎します。

 

①タイトル・作者名

『吉祥寺の朝比奈くん』・永田永一

※私が最も尊敬する小説家です。

 

 

②ジャンル(『「SAVE THE CATの法則」で売れる小説を書く』を参考にしています)

<どうしてそんなことを?>

<相棒愛>

<人生の教訓>

 

③ページ数

p226-p.303 (78ページ)

※読みやすい短編小説です。

 

④テーマ

聖書の愛、不倫。

※不倫に関わる描写が作中で繰り返し現れます。

 

⑤登場人物

・朝比奈ヒナタ 主人公。既婚者の真山田野にアプローチする。過去にストーカーに遭う、居候させてもらうなどよく異性に言い寄られる。二十五歳。

・山田真野 カフェの店員。ある事件がきっかけで朝比奈と知り合いになる。

・山田遠野 真野の娘。三才。

・哲雄先輩 会社員。三十歳。一時期居候させてもらっていたことがある。

 

⑥あらすじ

(第一幕)

主人公の朝比奈は、カフェでのカップルの喧嘩をきっかけにカフェ店員の山田と知り合いになる。仲良くなる方法を見いだせない朝比奈だったが、ある日献血ルームで山田と偶然に会い、連絡先を交換するが、山田の左手の薬指には指輪が放っており、彼女は既婚者だった。

 

(第二幕)

しかし、朝比奈と山田は逢瀬を重ねて次第に親しくなっていく。自分のしていることが不倫だと自覚しながらも朝比奈は山田との距離を詰めていくが、演劇を見に行った帰り道、不倫の罪悪感に耐えられなくなった山田からもう止めにしようと言われてしまう。

朝比奈は哲夫先輩に相談し「しっかりやれ」とお金を渡される。後日、山田から家に泊めて欲しいと連絡が来る。夫とのいさかいがあり止むを得ないと聞き、朝比奈は山田を家に泊める。

 

(第三幕)

翌日、表口から外に出ようとした山田を朝比奈は引き止める。朝比奈と山田は、スターバックスで山田の夫と遭遇する。山田の夫とは、哲夫先輩だった。朝比奈は哲夫先輩にある計画が失敗したことを告げる。

朝比奈は、哲夫先輩から依頼され山田と不倫をしていたことを山田に明かす。山田を家に泊めた日の翌朝、裏口から山田を逃したのは、浮気の決定的な不倫の証拠を夫である哲夫先輩に抑えさせないためだった。朝比奈は代わりに哲夫先輩の浮気の証拠を抑え、哲夫先輩の計画は頓挫、山田は夫から慰謝料を受け取る手はずになった。

山田は四国へ帰ってしまう。けれど、将来再び一緒になる可能性が示唆される。

 

⑦エピソードの配分(全体の**%で示す)

p.226-p.231 (6ページ、約8%)

朝比奈。カップルの喧嘩に巻き込まれ怪我をしたことをきっかけに、山田と知り合う。

 

p.231-238 (13ページ、約17%)

朝比奈、献血ルームで山田と会いメールアドレスを交換するが、彼女は既婚者だった。

 

p.238-p.243 (17ページ、約22%)

朝比奈、哲夫先輩と飲み屋で不倫についての世間話をする。

 

p.243-p.253 (28ページ、約36%)

朝比奈、娘を連れた山田と井の頭恩寵公園をデートする。

 

p.253-p.256 (31ページ、約40%)

朝比奈、テレビで性交の有無が不倫による慰謝料が請求の鍵となることを知る。

 

p.256-p.262 (37ページ、約48%)

朝比奈、山田と吉祥寺界隈で会い、芝居に行く約束をする。

 

p.263-p.266  (41ページ、約53%)

朝比奈、風邪を引くが、病気を押して山田と演劇を見に行く。山田は夫への罪悪感から、もう会わないようにしようと提案する

 

p.267-p.268 (42ページ、約54%)

朝比奈、山田とうまくいかないことを哲夫先輩に相談する。飲み屋に女の子を連れてきたため話ができないまま別れる。

 

p.269-p.279 (54ページ、約70%)

夫と喧嘩した山田が、朝比奈の家に泊まる。

 

p.279-285 (60ページ、約77%)

朝比奈。玄関から出ていこうとする山田を引き止め、窓から逃がす。朝比奈は山田に「旦那さんが、僕らの関係をしっているというのは正しいです」と伝える。ここで、山田の夫が哲夫先輩であることが明かされる。

 

p.287-p.288 (63ページ、約81%)

朝比奈が哲夫先輩から、慰謝料の支払いを避けるため妻と不倫してほしいと依賴され承諾していたことが読者に明かされる。

 

p.289-p.297 (72ページ、約92%)

朝比奈、山田に事情をすべて説明する。その後、哲夫の不貞が明らかになり、山田は夫からの慰謝料を勝ち取れそうな状況であることが示唆される。

 

p.297-p.299 (74ページ、約95%)

朝比奈、山田と井の頭公園を散歩する。二人の関係はある程度修復されている。

 

p.299-p.304 (78ページ、100%)

朝比奈、自宅を訪ねてきた山田と抱擁し、四国に帰る彼女を見送る。

 

⑧三幕構成の主要ポイント

・導入

朝比奈、カフェと献血ルームで山田と出会う。

 

・プロットポイント①

朝比奈、山田が既婚者であることを打ち明けられる。。

 

・中盤

デートを繰り返し二人が仲を深めていく。同時に、哲夫先輩や不倫に関わるテーマもここで提示される。

 

・プロットポイント②

山田からもう会わないでおこうと告げられる。

 

・終盤

山田を家に止めるが、山田が浮気現場を抑えられそうになるところを助け、真相を明かす。

 

⑨書き手として参考にできる点

「罪悪感を感じながらも不倫関係を続ける二人」という話は大変ありふれたものですが、そこに「不倫工作」の話を裏で進め最後で明かすことで大きな驚きを与える構成になっています。

もし、自分の話が単調でありきたりだと感じたときには、その背後にもう一つ「別の話」をくっつけ、メインストーリーとの整合を取りながらプロットを練り直しててみるといいかもしれません。

読んでいるときには一つの話に見えますが、複数のプロットを巧みに進めることで、統一感を持たせながら深みのある、中身の詰まった感覚を読者に与えられるのでしょう。

 

⑩書き手として自作に取り入れられそうなギミック

「不倫させてみる」

「知り合いに不倫工作をお願いする」

「劇団員のお芝居を利用して読者を騙す」

 

⑪感想

恋愛ものを主軸にしながら、犯罪小説のプロットを組み合わせで読者の意表を突く構成となっているとても永田永一っぽい作品だと感じます。

一番絵的に盛り上がるのが最初の椅子をぶん投げるシーンですが、大げさなアクションのない後半部位で一番盛り上げてくる手腕はさすが……!