狐の嫁入り

小説創作ブログ! のつもりでしたが、なんかだいぶ違う気がします……

「二十世紀電氣目録」を手に取れば、その素敵な装丁と世界観に誰もが魅了されるだろう

凄く綺麗な装丁だ、と思ったのが最初の印象です。題材が「電氣」と来て、科学技術的なギミックが盛り込まれた話に興味があったので購入しました。

 

いざ読んでみて、一ページ目では明治時代の空気感に魅了され、登場人物が動き出してからは、彼らが次にどう動くか、何をするかに目が離せなくなりました。手元に届いてから、エンディングまで一気読みでした。とても凄く作りこまれた最高のエンタメです。凄く面白いアニメ映画を見ているような気持ちでした。 とても感銘を受けた……ので、思ったところを語りたいと思います。

 

 

①ストーリーの概観

メインの主人公は、仏具店で機械修理を営む喜八と、酒蔵の娘の稲子。大枠のストーリーは、「意に染まない結婚から逃亡する男女の恋愛もの」です。そこには、喜八が幼いころいたずら書きで書いた「二十世紀電氣目録」にかかわる謎を巡って短い旅を続け、やがて互いを理解した二人が結ばれるストーリーです。サブのストーリーには大人の悲恋を、二つのストーリーを結びつける核として「二十世紀電氣目録」を巡る謎が機能しています。

 

②この話の魅力

1900年頃の史実を踏まえながらストーリーが展開されており、その時代の空気感が伝わってきます。まるで自分がその時代にいるかのような臨場感を感じさせる、具体性のある世界観が構築されています。

ストーリー展開はスタンダードながら、複数のプロットと「電氣目録」を巡る謎、親子の不和に大人の悲恋、主人公たちの恋路、新興と科学を巡る考え方の齟齬、等のサブプロットが巧みに盛り込まれています。


話は程よく複雑で、登城人物もそこまで多くなく、読みやすいです。主人公たちの成長と恋路/悲恋に終わった大人の恋愛という二種類のプロットを、電気目録の謎という三つ目のエピソードで上手につないでいます。電気目録の謎には、二人の周囲の大人の謀略というか策略というか、ドロドロっとしたあれこれががいろいろ絡んでいるところも、ただの青春恋愛物で終わらない面白さを作品に与えています。

 

何よりも面白いのが、喜八と稲子の対称性。

喜八は「目に見えるものしか信じない」超客観事実主義者ですが、一方で何をやっても怒られてばかりの稲子は「神を妄信する素直な女の子」です。

一見全く違う考えを持った二人が、最終的に共通の解にたどり着く思想的な成長はが凄く印象的です。互いの理解、成長、それに、「信仰と科学」という現代人も悩む究極のテーマを、二人の仲の進展と同時に進捗させて、うまく結末と結びつける構成に唸らされました。

もちろん、他にも、無駄なく展開されてうまく落とされる小さなエピソードがいくつもあります。

きっと凄くプロットを練ってるんでしょう。それとも、一発書きで全部できてしまう人? だとしたら凄い。けれど、話の転換点が本の真ん中に来ており、王道のストーリーを外さず、かつ、それに付随するサブプロットもうまく展開されているのを見て、きっと相当考えて、基礎のセオリーをしっかり押さえて話を作りこんでいるのだと感じました。

 

この二人は、テーマの仮託先としても面白いのですが、人物としてもとても魅力的です。
電気という当時の新技術に強い興味を示し向学心もある喜八に、機械設計技術者は共感を禁じ得ないでしょう(風立ちぬ堀越二郎も最高だった……!)
神を妄信する稲子は素直で可愛い女の子で、自らの葛藤を乗り越え成長していく様は、はたから見ていて強く応援したい気持ちになります。

もちろん、ほかの登場人物も、各々の葛藤や癖をもった面白い人物ばかり。人物造形や性格も「アニメ映画」を強く思わせます。

 

読んだ後は、この登場人物が存在する世界にもっと浸っていたい、と思える、素敵な作品でした。

 

③いろいろ思うところ

時代考証はどうなんだろう? 喋り方とか。まあそこはフィクションだしいいのかな。でも気になる人は気になるかも。その時代の文学研究してる人とか。
・中盤からの展開が都合良すぎ?  (登場人物が突っ込みを入れて「これが神の導きか……」みたいなことを言っているので、作り手はここのあたりを書くのにちょっと苦労したのかなと思う)
・万博、電車の経路、お酒の作り方等、当時の様子を凄く綿密に取材している。生活感が伝わってくる世界観。人物も町もバックグラウンドがしっかり作りこまれ、そしてすべて魅力的……素人物書きとしてはちょっとショックを受けた……こんな話をどうやって作るんだろう。

・後半、仲を深めていく主人公の二人が眩しすぎて直視できない。きっとあんな糞臭い台詞を恥じらいもなく言えるのはこの年代だけだと思う。(15歳か……と思った)
「俺がお前の人見に明かりを灯してやる」とか
「私があなたの○○になる」とかそういうの

電子書籍版がないのはなぜ……?
・稲子がからかわれて喜八をどついたり蹴ったりするさまはアニメっぽいイメージが浮かぶ。アニメ版でちょっと見たい気もする……
・ちょっと高い……? 文庫で儲ける商売ではないんでしょうけれど

・一つ誤字見つけました p.242 12行目「苗子×」→「規子◎」だと思う。

 

④まとめ

喜八も稲子も、登場人物全員、そして彼らが生きている世界も全て魅力的で、ずっと読んでいたいと思える素敵な本でした!