狐の嫁入り

小説創作ブログ! のつもりでしたが、なんかだいぶ違う気がします……

「君の膵臓をたべたい」を読んだ私は、桜良が可愛すぎてもだえ死にそうになった

私は恋人の病死する話が苦手だった。多分、その根源は、かなり昔に大ヒットした「恋空」の影響があると思う。「恋空」はいわゆるケータイ小説として大ヒットし、映画にもなり、そしてその女子高生(中学生?)の妄想の具現化とも言うべきストーリーから、一部のネット界隈では格好の悪口ネタとして有名だった。

恋空〈上〉―切ナイ恋物語

恋空〈上〉―切ナイ恋物語

 

 無菌室でキスするとかヒロインヤバいわみたいな正論とか、後は、作者の都合で死んでいく恋人を茶化した発言が多々あり、良くも悪くも素直だった私はそれを真に受け、こう考えるようになった。
愛する人の死は、作者が自己陶酔するための道具であり、非常に気持ちが悪いものだ」
ちなみに私は恋空を最後まで読んでさえいない。なぜそこまで恋人が死ぬ設定に嫌悪感を覚えていたのか、つい最近まで私は、ヒロインが死ぬ系の予感のある話を、なんとなく避けていた節さえある。
そして三年前、「恋空」を彷彿とさせるシチュエーションで、ウェブ発信のある小説が大ヒットした。

君の膵臓をたべたい (双葉文庫)

君の膵臓をたべたい (双葉文庫)

 

今も各種メディアミックスで話題になり続ける、「君の膵臓をたべたい」だ。

恋人が死ぬ系小説は何度でもよみがえり、定期的に話題になるのか……そう呆れていた私は初めから興味を持っていなかった。が、たまたま手に取る機会があった。
実家の本棚に「君の膵臓をたべたい」があるのを見た私は、怖いもの見たさかほんの気まぐれか、話題になる小説がどんなものかとふっと興味が沸き、そして、

あれ? 結構面白いじゃん、

と、余裕で読んでいて、後半でちょっと泣きそうになったのだ……
そうして私は、手首をねじ切らんばかりに手のひらを返したのだ。

 


自分に酔いすぎない主人公

この物語に私が入り込めたのは、主人公自身が、物事に対して努めて冷静であろうとしてたからだと私は思う。彼女の病気に、わざとらしい憐憫や憐れみをかけず、そんな彼女と秘密を共有することにも特別な感情を抱かず、目の前の出来事を淡々と語っていく。
その視点から見えた景色は、主人公の思いをできる限り通さず、そのまま我々への問いかけとなる。

「こういうことがあるけど、読んでるあなたはどう感じる?」

と。
冷静で、高校生のくせになかなか安定した語り口。気の利いた会話もできて、物語の最後まで一緒するのに、私は苦痛にならなかった。
ただ、本人からはだいぶやる気のない感じがする。


桜良という最強のオフェンス

自分からは全く動き出さず、ろくなリアクションもしようとしない主人公が「超ディフェンス型」とするならば、ヒロインの桜良はまさにその対極を行く存在である。元気はつらつで人気者、止めなければたわいない話や不謹慎なジョークを延々に続けているであろう彼女は、「超オフェンス型」だ。主人公からなんとしても感情を引き出そうとするヒロインと、ずっと自らの冷静さを保とうとする主人公。彼女が最後の願いを実行していったのは、自分の願いをかなえていくためだったと思うのだけれど、それと同時に、一ミリでも主人公の冷静さを突き崩してやりたかったからだと思うのだ。
主人公は、桜良の繰り出すにぎやかで色鮮かな楽しみや誘惑を極めて冷静に受けていくが、対する桜良は次々と新しいアイデアを思いつき主人公を試していく。
主人公と桜良が出会い、そして主人公が病気のことを知った時から、二人の戦いは火ぶたを切って落とされた。共病文庫は、偶然にも桜良から主人公に手渡された聖なる剣のように、私には見えた。

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こんなイメージ。

 

全く悲壮さを感じさせないストーリー

こんな好敵手である二人だが、ひとつ、大きな共通点がある。それが、

死に至る膵臓の病に全く動じない

ところだ。

それどころか、桜良に至っては面白がって自虐的なジョークを飛ばしたりする。後半には主人公も悪ノリで同調してしまうほどだ。
これがきっと、この作中において二人を結びつけた一番大きな要素だと思う。二人とも、それくらいのことでは動じないような、確固たる物事への態度を身に着けていたのだ。
正反対だけど軸は持っている。そんな二人が、お互いに興味を持っていくのは凄く自然なことだ。そこには、ヒロインの友人も元恋人も横やりすることを許されない。だから、彼女の元恋人はあっという間に主人公の目の前から排除されてしまうのだ。
二人の間にあるのは恋愛感情でも友情でもなく、「主人公と桜良」との関係、としか呼べないような、固くももろくもない、それでいて死でさえ断ち切ることのできない不思議な絆なのだ。


不覚にもちょっと泣けた

軸をしっかりもった明るい桜良、強く感情を動かすまいといつも冷静な主人公。その二人の間で交わされる気の利いた会話、友人でもなく、恋人でもない不思議な関係に、時に楽しくなり、時に緊張し、時に胸が締め付けられる。テンポよく進んでいく展開に身を任せているうちに、ふいに物語はエンディングへと走り出す。
いつも明るい桜良がふいに寂しい様子を見せ、無感動な主人公は桜の思いに打たれ、ずっと保っていた心の仮面にひびを入れられる。
この物語中、いかにも正反対の態度を保っていた二人は、最後の最後で、相手が自分には持っていなかったものを持っていたことに気が付くのだ。陰と陽が混ざり合って一つになり、気丈な二人が互いへの思いを吐露し、主人公の意識が内側から外に向かう変化するのを見て、私はふいに目の奥が熱くなってしまったのだ。
病気で死ぬから可哀そう? 悲哀に茫然とする自分に酔っている? 馬鹿を言うなと過去の自分を叱ってやりたい。この話は、出会うべくして出会った二人が、お互いのことを深く理解していく過程を描いた、心の成長のお話しなのだ。


まとめ

登場人物の会話は軽くて気が利いていて楽しい。それでちょっと含蓄あるのがいい感じ。読みやすい文章で、話はテンポ良く進む。後半ではふいをついて調子が変わり、率直に言って私は感動した。
読み終わった後には、外に関心を向けて広い世界に歩いていきたい気持ちになる、さわやかで楽しい青春小説だ。

……不覚にも泣きそうになった私はかなりチョロい人間なんだろうか?

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明日から劇場アニメ映画も。一発ヒットしたからには売りつくすぜ! という強い気概を感じる。

追記

たべたい、は漢字じゃなくてひらがなだった……

追記その2

最高の恋愛映画はこの記事でも紹介していますよ!

youmizuno.hatenablog.com