狐の嫁入り

小説創作ブログ! のつもりでしたが、なんかだいぶ違う気がします……

『「私が笑ったら、死にますから」と、水品さんは言ったんだ。』を読んだ私は「君は自分の幸せを率直に表現してもいい優しい人間だ!」と叫びたくなった

こんにちは。

 

月曜有給で土日を延長しました。ミズノです。

 作者がめちゃくちゃ宣伝していたから、買った。SNSはいい。これからデビューする作家さんと直接やりとりができ、今後どうなっていくかもリアルタイムで知ることができる。

 

 ※本ページはネタバレ含みます。

 

こんな話

表紙から推察される通り、ラノベチックの軽い文体でさくさく読めるライトミステリ。同級生の美少女(お約束!)に妙な仕事を依頼された主人公が4つの謎に挑む。
「電車に乗るお仕事」「道を聞くお仕事」「道端でめっちゃ騒いで道行く人の注目を集めるお仕事」を依頼された主人公が「なんでこんなことする必要があるの?」という理由を探し求める3編。それに加え、本編全体を通じて語られる「なぜ水品さんは笑わないのか」の謎を核として話が展開する。
4つめの謎「なぜ水品さんは笑わないのか?」は、作者の主張と直接結びついている。おそらく作者は、4つめの謎を終着点として考える構想を最初に立てて、それから前3編の謎を考えていったのかなと思う。それとも、話を落とすために頑張って4つめの謎を思いついたのか……それは作者のみ知るところだ。本人に聞いたら教えてくれるだろうか?

難しい表現もなくサクサク読め、アニメチックなキャラクターの掛け合いがなかなか楽しい。肩の力を抜いて楽しめる良作だと私は思っている。ただ、わりかし小難しい本をたくさん読む「自称読書ガチ勢」にはちょっと物足りないかもしれない。ちなみに私は、作者のTwitterアカウントと合わせてある意味一つの作品だと思っている節がある。感想を伝えたら、作者から直接反応が返ってくる……しかも本は滅茶苦茶読みやすく、一周もすれば人物と話の筋はきちんと頭に収まる。時間のない現代人の一人として、こんなふうに、小説は短くわかりやすくあってくれたほうが私は嬉しいのだが、どうなんだろうか。
と、本作、現代ならではのテーマを取り扱った部分に目新しさがある。ライトな謎と楽しいキャラクターでサクサク読ませる。そして、作者に感想を伝えるとそれがぱっと返ってくる(かもしれない)。そういう「とてもフットワークの軽い」作品だ。

 

作品テーマについて思うこと

全く違う話になってしまうが、インターネットが十分にいきわたった昨今、作者と作品を全く別物として切り離して考えることはもう難しいのかな……ということをこの作品を通じて強く感じた。電子書籍が普及してアナログ的な商品が淘汰される一方、作者と読者とのつながり自体が、本を出すうえでの付加価値になっていくような気が、私はしている。アマゾンは本を活字データとしてしか取り扱わない。けれど書店に行けば著者と会える、出版をまとめた編集者と、そして売った人と会える。もしかしたらサイン会なんてやってたりするかもしれない。リアル書店の付加価値はそのあたりについていくんじゃなかろうか。

さて、本書の主題であるSNSと人間、についてだが、私としては共感するところがあった。私はこの話を読んで「有名人の幸せアピール」と「それを全力で叩こうとする一般市民」の図が頭に浮かんだ。この小説に登場するのは、そのどちらにも当てはまらない人間だ。
インターネットの世界では、人の心に寄り添える本当に優しい人は自分を表現しなくなる、ように私は感じている。その代わり、過激な表現で人々を煽る悪い人たちと、それを躍起になって潰そうとする人たちの戦いが常にどこかで勃発している。結局、自分のことしか考えられない人の声の大きな発言ばかりが後に残る。
「嫌なインターネットだ」
と、ログを見返して思ってしまうのは仕方がないと思う。成功者のノブレスオブリージュも、一般大衆のヒーローへの敬意も、そこには欠けている。どっちが先に攻撃を仕掛けたのかは謎だけれど、そういうのを見ていると、余計なことは言わないほうが吉だと思ってしまうじゃないか。
ちなみに私の好きな研究者「落合陽一」はそういったクソリプは全力で叩き潰すべきと主張している。「とりあえずぶっ潰せ!」的な主張はトランプ大統領も言ってた気がする。自分の利益のために全力で他人をぶったたけ! という風潮は、個人主義的な考え方が一般的になった昨今、ある意味正しいのかもしれないが、なんだかどうしても違和感を覚えてしまう……人はもっと、人に優しくなれないものだろうか?

たとえ見ず知らずでもあってもさ。主義主張はいろいろあるけど、結局は感情を害されてしまう人が一人でも少ない選択をするべきじゃないかと、私は思うんですよ。
と、この本に出てくる登場人物にはそういう過激な人物はいなくて、皆、「心優しいサイレントマイノリティ」といった人たち。SNS炎上をニュースで見る度に、私が心のどこかで思いを馳せていた人たちを具現化したみたいなキャラクター。だから共感できたのかもしれない。
そして本作のメインキャラ「水品さん」本人はその最たる人だ。ラノベチックな性格造形とともに、そういう人たちを代表できる存在として描かれているのが「水品さん」だとわたしは思っている。
彼女は、どこか遠くにいる誰かの痛みに思いを馳せられ、そしてその悪意の怖さを誰よりも知っているからこそ「笑わない」のだ。
けれど彼女は、それこそ平成最後のジャンヌダルクのごとく、爆弾を抱えてその悪意に特攻しようとする。日常の謎の連作かと思ったけれど、最後のテーマにはネットでつながった社会ならではの問題に触れている。SNSと切っても切り離せない関係を持ってしまった私たちなら、作者の思いにはきっと共感できるだろう。
最後まで読み終わった私は思う、自分を表現していいのは、他者の痛みに思いを馳せられる人だけだ、もしも私が「自分を思い切り表現していい資格」の認定を担当できるならば、「水品さん」のような人には、永久に更新不要でその資格を付与したい。そして私はこう言うだろう。

「君は自分の幸せを率直に表現していい優しい人間だ!」

と。完全にヤバい人である。


その私自身が、それだけの資格を持つ資格があるのかという疑問には今回はノータッチでお願いしたい。

 

この作品が受賞作として選ばれた理由は、その主張に編集者の方が目を付けたからかなと私は思っている。それと、若者向けのライト文芸がたくさんの読者に読まれていること。Twitterの読書垢を眺めていると、メディアワークス文庫とアニメ柄の表紙が意外と多くてびっくりした。と、いうか私がフォローしている人は皆学生なのかな……? 確かに、読書は時間をめっちゃ食べる趣味だから、学生のうちが一番読めるけれど。


まとめ

読みやすいライトミステリ、楽しいキャラクター達に、SNSと人間の問題に触れ共感を呼ぶテーマ、そして作者のお人柄……まさに、今の時代にはこういう本が出るのか! ということが凄くよくわかる作品。
著者のツイッターと一緒にどうぞ。