狐の嫁入り

小説創作ブログ! のつもりでしたが、なんかだいぶ違う気がします……

「デジタルネイチャー」を読んで、思考をぐちゃぐちゃにかき乱されたい。

タイトルが大げさすぎて若干胡散臭い気がした。けれど、本の表紙は、いろいろな意味であまり信用してはいけない。

内容は、著者のイメージら受ける通り、なかなか刺激的だった。

デジタルネイチャー 生態系を為す汎神化した計算機による侘と寂

デジタルネイチャー 生態系を為す汎神化した計算機による侘と寂

 

 

AI研究者が何に関心を持っているかがよくわかる辞書だ。

 

まず、私の思う「良い科学書」の話をしたい。
一つ、例えば、一般的な知識のない人にも自分の専門部やを興味深く伝え、科学的なものの見方や考え方をそれとなく教えてくれる本。例えば、「ロウソクの科学」なんかがそうだろう。
二つ、わかりやすいのはもちろんだが、その中に、作者として、事象に対する説明や未来予想等、自分の主張したい事柄が明確に示されている。「利己的な遺伝子」や「サピエンス全史」等は、科学的知見を読者に提供しつつ、自説を明確にしそれを裏付ける事例をあげている。
三つ目、作者の知見を体系的にまとめ、整理したもの。これはいわゆる「教科書」だ。読み物としての面白さは少ないが、いろいろな事柄がきっちりまとまっていて自分の頭の整理にもなるし、考えの基礎にもなる。
ただし、良くない科学書も存在する。それは、作者の興味があることをただひたすらに並べ立て、何が主張したいのかわかりにくい、もしくは主張したいことが特に読み取れない本だ――失礼を承知でいれば、この本はそういった類の本と思っている。

落合陽一のラジオやテレビを面白く聞いたり見たりしている私としてはちょっと残念だった……分野を横断する幅広い知見を持ち、一般的な常識とは外れた考え方を、歯に衣着せぬ明瞭な物言いで語るその姿には尊敬すら覚えていた。論文の読み方や研究の進め方は、私の尊敬していた研究室の先輩とまるまる一緒で、一瞬本人が偽名+整形でテレビにでているんじゃないかとさえ思った。後々、VALUも利用してみようかとわりと本気で考えるきっかけになった人でもある。

 

まあそれはいいとして。

 

本書で主張らしい主張かな、と思ったのは「近い将来、統計的分布の外にある物事を追求するクリエイティブ層と、既存のシステムを維持するだけの生活保護層に分かれるだろう」ということ。それだって、私でさえいつだったか考えたほどだし、その裏付けになる具体的な事例を載せているわけでもない。その他は、哲学やら社会科学やらの知識が、脈絡もなく(おそらく作者的にはどこかでつながりがあるのだろうが)展開され、よくまとまっていない辞書という印象を受けた。
私の情報科学的な知識はほぼゼロだが、内容自体は基本的な数学の考え方がそれなりにあればそれなりに理解できるものである。ただし、扱っている内容が内容なので、一読して主張がくみ取れなかった時の私は「もしかして自分が馬鹿すぎるだけかも」という疑いにかられた。二週目が終わった時点で、多分この本は、思いついたことをバババっと書いた、本人にとってもある意味メモ的なものなのだろうと私は結論している。


本としてのまとまりはいまいちだが、今、最前線で活躍する科学者の、ごちゃごちゃしてカオスを極める頭の中を、文字通り「読む」ことができるという意味ではとても意義がある。
これを読んで、私は、世阿弥の「花鳥風月」に手を出し始めてみたし、東洋哲学の本も読んでみようかなと思ったし、マックスウェーバーのなんとやらという本にも、「そういえば教科書で名前聞いたっきり原著読んでないな」と思い出せた。
ある意味で、まとまった本よりもずっと「刺激的な」本だ。
それと、冒頭のシーンが非常に素敵だ。霧の中を走る自動車の中で、作者は、電子機器が人間の五感を代替できることを考えるのだ。ここが、本作の作者の主張のスタートである。
作者の興味、考えていることが、まるで機関銃かの如くひたすらに連射される。それをひたすら受け止める本田……一流と世間で言われる研究者に対して批判的なコメントをするのは大変恐縮だが、私はこの本に対しそういう印象を受けた。

この本の魅力は、今を時めく情報科学者のカオスな頭の中が「そのまま文字として読める」ところにある。
ただし、全体として意味がくみ取れなかったとしても
「それは読解力不足ではなくて、単に主張がないか、明示されてないだけだ」と、私は思っている。

ともあれ、情報科学の知識ほぼゼロの私には、大変刺激的な本だった。

「超雲の上な科学者のメモ長の中身がそのままみられる」といえば、なかなか魅力的な本に思えるんじゃなかろうか。