【小説】最高のエンタメ作家は誰だ?
はじめに
なぜかエロ記事ばかりが読まれるようになってしまった弊ブログですが、本来目指すべきは硬派読書ブログです。
と、いうことで、なんとか方向転換を目指すべく、今回は最高のエンタメ作家を私の独断と偏見でご紹介。
私の思う最高の小説も厳選しましたので、こちらもどうか……!
目次
宮部みゆき
日本の国民作家で誰? ともしも聞かれたら、私は迷わず「宮部みゆき!」と答えます。デビュー作はミステリ短編集「我らが隣人の犯罪」こちらも私の大好物な「キレッキレで無駄のない、最高に構成された」短編集です。
宮部みゆきの凄いところは何かというと、「なんでも書ける」ところです。もう一度言います、「なんでも書ける」んです。
短編ミステリでデビューし、その後は歴史短編を出し、SF、ファンタジー、社会派ミステリーと多ジャンルにわたり活躍。歴史の短編小説を出し、社会派ミステリ長編を出したと思ったら、人を殴り殺せんるんじゃないかと思うくらいの分厚さの「超長編異世界冒険譚」を書いたりする。何かの解説で書かれていましたが、宮部みゆきはまさに
「希代のストーリーテラー」
の名にふさわしい人物と思います。
人がひどい殺されたかたをする話も結構書いてるので、「この人ヤバい人かな?」と私は思っていたのですが「ダヴィンチ」の雑誌で始めて宮部先生を見た時にはほっこりしました。私は、この赤い縁の眼鏡をかけてるバージョンが好きです。
ちなみに何かの記事では、日銀の黒田総裁と対談なんかしてました……私はその事実を知って、宮部みゆき=国民作家の図は揺らがないと確信しています。
おすすめは、軽いところで「ステップファザーステップ」「我らが隣人の犯罪」、中級編に「龍は眠る」「名もなき毒」、くっそ長くて重いのなら「模倣犯」「ブレイブストーリー」あたりでしょうか? ちなみにこのリストも結構古くて、今でも、続々と宮部みゆきの新刊は発行され続けています……私、実は追い切れていません。
恩田陸
この人抜きには近年の小説界は語れません。
「蜜蜂と遠来」は単行本の時点で50万部を売り上げ、過去に例をない「本屋大賞」と「直木賞」の同時受賞という偉業を打ち立てた文句のつけようもない傑作です。
また、私の殿堂入りの一冊「夜のピクニック」でも、10年以上前に本屋大賞を受賞しています。文学賞の受賞歴多数、映像化多数、長編から短編、ジャンルも幅広く、長いキャリアと信頼を積み上げてきた近年最も有名な小説家でしょう。
高校生の時に呼んだ「遠野物語」が微妙だったので私はあまりいい印象を持っていませんでしたが……近年の恩田陸フィーバーを見て、このリストに加えないことは不可能だと判断しました。
直近だと、「蜜蜂と遠来」は映画化。スピンオフ作品の「祝祭と予感」も発売されました。まだまだ、「蜜蜂と遠来」フィーバーは続きそうです。
米澤穂信
あまり普段本を読まない人に「おすすめのミステリー教えて!」と言われたら、私は迷いなくこの人の著作の中から選ぶと思います。平成年代の「人の死なない日常の謎」というジャンルを国内に広める一番大きな原動力になったのはきっとこの人。米澤穂信です。
デビュー作は、アニメにもなった「氷菓」で、角川学園小説大賞を獲得。2001年。「氷菓」シリーズは、主人公奉太郎の冷めた一人称で進むミステリ青春群像です。
涼宮ハルヒシリーズのキョンと近い雰囲気を感じる語りが印象的。「氷菓」シリーズがアニメになったのは2012年、「涼宮ハルヒ」シリーズがアニメになったのは「2006年」、制作は両方とも京都アニメーション。
「涼宮ハルヒ」シリーズの爆発的ヒットにより、10年代ラノベやアニメにはSF、変な部活もの、タイムトラベル物が増えました。もし、
「2006年に氷菓が先にアニメになっていたら、その後のアニメ界の主要な題材は日常の謎がスタンダードになり、日本ミステリ会にもとんでもない影響を与え、ライトミステリ全盛の時代が到来していたんじゃなかろうか?」
みたいなことを夢想します。
長編もいろいろ出していますが、私は短編のほうが好きです。「遠回りする雛」の中の「心当たりのあるものは」が私の中では一番です。
すでに人気作家となった米澤穂信ですが、後一歩で直木賞にも届かんとしています。
(抜粋はウィキペディアより)
- 2001年 - 『氷菓』で第5回角川学園小説大賞(ヤングミステリー&ホラー部門)奨励賞受賞。
- 2007年 - 『心あたりのある者は』で第60回日本推理作家協会賞(短編部門)候補。
- 2008年 - 『インシテミル』で第8回本格ミステリ大賞(小説部門)候補。
- 2010年 - 『追想五断章』で第63回日本推理作家協会賞(長編および連作短編集部門)候補、第10回本格ミステリ大賞(小説部門)候補。
- 2011年 - 『折れた竜骨』で第64回日本推理作家協会賞(長編および連作短編集部門)受賞、第11回本格ミステリ大賞(小説部門)候補、第24回山本周五郎賞候補。
- 2014年 - 『満願』で第27回山本周五郎賞受賞[15]、第151回直木三十五賞候補[16]。
- 2015年 - 『満願』で第12回本屋大賞候補(第7位)。
- 2016年 - 『真実の10メートル手前』で第155回直木三十五賞候補
受賞歴を重ねて作家としてぐんぐんキャリア(?)アップしています。おそらく直木賞を受賞した際には、とんでもない「氷菓」フィーバーが始まるだろう期待にわくわくが止まりません。
「氷菓」の話ばかりしてきましたが、この人の面白いところはやはり「切れのあるミステリ短編」だと私は思っています(そればっかり言ってる……)
そういうわけで私的には、「儚い羊たちの祝宴」「満願」「真実の十メートル手前」「遠回りする雛」「春季限定苺タルト事件」あたりがおすすめです(※18/9/14更新)
乙一
16歳の時「夏と花火と私の死体」で異例のデビューを飾った、誰もが認める天才作家、乙一です。
シンプルで読みやすい文体と、何よりもキレのある短編を描かせたら右に出る者のない作家。その作風も幅広く、切なさを基調とした「白乙一」と残酷さや驚きを追求した「黒乙一」などに分類されます。私はどっちも好きです。
なお、いつからか複数の筆名を使い分けており「もしかして乙一断筆した……?」と不安になったファンは多いはず。と、いうか私がそうです。
私のおすすめは、「失はれる物語」「GOTH」「吉祥寺の朝比奈くん」あたり。
筆名を使い分けている理由は私にはちょっと推察できませんが、なかなか難しい考え方をされる方なのかもしれません。作家というのは、いつの時代もそうなのかもしれませんが。
スティーブン・キング
最高のエンタメ作家、というからには絶対に外すことのできないこの人。「モダンホラーの帝王」と呼ばれる、まさに、「世界最高のエンタメ作家」と呼んで差し支えない人物。本職はホラー作家なのですが、有名な作品はホラーから外れたものが多いという、微妙に不遇な方。ちなみに私も、キング作品はホラーテイストのものよりもちょっと不思議系の話のほうが好きです。
一番有名なのはアカデミー賞を受賞した「ショーシャンクの空」でしょう。このブログでも幾度となく紹介していますね。
もうひとつ、日本の作家はこの人の影響を多分に受けています。小野不由美の「屍鬼」は「呪われた町」、や宮部みゆきの「クロスファイア」は「ファイアースターター」、恩田陸の「夜のピクニック」は「ウォーキング・デッド(もしかしたらこれは違うかも……)」の構成や設定をそのまま流用、もしくは換骨脱退しています。「スティーブンキングのような小説が書きたい」とインタビューで答える作家は非常に多いです。確か綿矢りさの好きな作家でもあったような(wikipedia参照)。
そういうわけで、日本のちょっと不思議で怖い話を見れば、多かれ少なかれこの人のエキスが入っていると考えて間違いない。その源にいる作家、それがスティーブン・キングです。
長編小説が多いのと、短編はアイデアは面白いですがちょっと読みにくかったりするので、中編くらいのあまり長くないやつから入るのがおすすめです。と、いうわけでまずは超名作「スタンド・バイ・ミー」から入って「ゴールデンボーイ」を読むのが安定ではないでしょうか? その後は、「IT」やら「シャイニング」やらのホラー路線に行ってもいいし「グリーンマイル」やら「ダークゾーン」やらのちょっと不思議系に行ってもいいし、「ダークタワー」みたいな超長編小説の世界に入っていってもいいでしょう。
日々新しい小説家は誕生し続けていますが、この人を読んでおけばだいたい間違いありません。まずは、「ゴールデンボーイ」の中に収録されている「刑務所のリタ・ヘイワーズ」から読みましょう!
ちなみにこの人ではありません
J・K・ローリング
最高の小説家の話をするなら、絶対に外してはいけない人「J・K・ローリング」。離婚や生活保護を経験しならがも執筆をつづけ、一度出版を断われた後に別の機会を捕まえて、またたくまに「世界で最も有名な小説」になった「ハリーポッターシリーズ」の著者。私も、小学生くらいの時には、ハリーの冒険に胸を躍らせました。
ハリーポッターシリーズの凄いところは「魔法界」という存在が、架空の存在とは思えないくらい、想像力ゆたかに、まるで本当に存在しているんじゃないかと思えるような筆致で描写されていくところです。この人の頭の中はいったいどうなっているんでしょうか? 百味ビーンズ、ダイアゴン横丁、9と3/4番線、クディッチ……めぐるめく奇想に、幼い日の私は虜になりました。
ハリーポッターが有名だから取り上げたけど本人のことをあまり知らないというあれ……
エドガー・アラン・ポー
推理小説の始祖。あらゆるジャンルの出発点……
実は昔の記事に書きました
江戸川乱歩やコナンドイルにも影響を与えた、まさに最高の作家。
ミステリの始祖的な部分ばかりが取りざたされますが、自然科学にも非常に詳しく、科学的基盤をしっかりもった良質なSFも書きます。
いわゆるホラー系なら「黒猫」「アッシャー家の崩壊」、ミステリ/謎解きなら「モルグ街の殺人」「黄金無視」、SFなら「ハンス・ファブニルの奇妙な冒険」「大渦への落下」あたりがおすすめ。「大鴉」なんかの詩も書きます。多分、私の知っている小説家の中で一番学識が深く、考察力もあり、最も物語作りを理詰めで考えるタイプの人です。
全集は5巻セットで出てますが、青空文庫なら無料で読めるものもあります。
三秋 縋
未だに読み方が思い出せなくなる作家「みあき すがる」と読みます。
写真がなかったので書影を貼っています。最近は顔を出さない作家増えましたね(住野よる、とか)
2ch掲示板において「げんふうけい」名義でSSを書いていたことがきっかけでデビューした小説家。私も「スターティング・オーヴァー」の原型をSSで読みました。凄く良かったです(小並)。今でも、ちょっと痛くて切ないエンドに震える気持ちを思い出します。
作家としてのキャリアも積みつつあり、最近では「君の話」で山本周五郎賞の候補になりました。
読み味としては、切なくてちょっと苦しい、中学二年生が大好きそうなキャラクターとス卜ーリー展開が特徴的であり、そして私の大好物でもあります。
いろいろこじらせた暗い男が、いろいろ変だけど可愛い(お約束!)女の子としんどい恋愛をする話が多いイメージ。そこに、SFやファンタジーといったギミックが組み合わされます。文章も読みやすく、展開もわかりやすく、登場人物も少なく話を筋を追うのがとても楽で、肩肘張らず楽しめます。会社の同期曰く話は重いらしいですが。(私はそう思いません)。
最高のエンタメ作家、と言われるとあまりに作品が偏り過ぎ、若すぎ(お前が言うかという声は当然あります)が、着々とキャリアを積みつつある作家ということで、今後の躍進に期待しつつこのリストに加えます。
私と同年代の作家ということもあり、隠れ小説家志望としては羨望と焦りを感じますね……私も新しい話書かなきゃ
「君の話」はなかなか楽しめたのでおすすめ。多分若い人は結構好きな話なんじゃないかなと。
まとめ
「最高のエンタメ作家は誰だ?」
なんていう挑戦的なタイトルを付けてしまいましたが、完全に私の好みです。
さて、世の中には読み切れないほどたくさんの小説があり、そのなかから自分にあった面白いものを選び出すのは大変です。そういう時「お気に入り作家」を一人見つけるといいと思います。
そういうものを一人見つけると、ずぶずぶと読書にはまっていける。ちなみに私のきっかけは「乙一」でした。
誰も聞いていないかもしれませんが、作家デビューして憧れの先輩方(敬愛する先生方を先輩と呼びたい)とお話するのが私の夢の一つであることをこっそり告白しておいきます。
また、暫定で最高の作家になりつつある人たちが私の中に複数います(谷崎潤一郎、ダニエル・キース、ジョージ・オーウェル、カポーティ、トールキン……)。
この記事で書いてきた作家ですが、世間一般ではすでに最高の作家だったり、「こいつエンタメじゃなくね?」とかいう人もいるかもしれませんし、どちらかというと今後が楽しみな作家では、などなど異論はあるかと思いますが、私の独断と偏見なので許してください。
なお、このリストは永遠に未完成です。皆様の思う「最高の作家」を、ぜひとも私にご教授いただきたく。
以上です! 皆様が最高のエンタメ作家と出会えんことを!
お酒がなくなって欲しいと、私がひっそりと願っている7つの理由
こんばんは、ミズノです。
お酒は百害あって一利なし! と言いますが、なかなか普段、そのデメリットを声高に叫ぶ人はいません。お酒を強要するとまではいかずとも「なんで飲まないの?」みたいな発言がよく聞かれる(というか、私が結構言われた。最近は言われなくなってきたのですが……)のは、お酒を飲むのは当然、という空気がまだ残っているからだと思います。私は、メリットデメリット双方考え、飲む飲まないを自由に決められるようになって欲しいと心から願っています。そういう訳で今回は、お酒をお勧めしてしまう人へ、こういう理由で私は飲まないんだというところを、ひっそりと主張したいと思います
①飲まない人を排斥してしまう可能性がある
お酒はコミュニケーションのツールですが、一方で飲まない人を排斥してしまいます。飲む人/飲まない人という不要な対立を生み、「ノリが悪い奴」だったり「あいつは人に物事を強要する」など、不和の原因になります。また、ただお酒が嫌いなだけなのに「あいつは俺が嫌いだから、俺の前ではあまり飲まない」といった、不要な邪推を生んでしまう原因にもなります。
②優しい人に我慢を強いてしまう
中には、付き合いのために嫌々、それでも楽しそうにお酒を飲む人がいます。そういった、人のことを思う優しい人を苦しませることになります。
あなたのお酒を喜んで飲んでくれた人も、実は内心では凄く苦しんでいるかもしれません。それに気が付かないで楽しんでいる人が、この世にいったいどれだけいることでしょう。恐ろしい話です。
③お金がかかる
どんなに安いお酒でもソフトドリンクの二倍、ちょっといいお酒を飲もうものなら、一日の食費でさえ凌駕する額になってしまいます。
そのお酒を我慢したら、いったい何ができますか? 何が買えますか? そういった可能性を、毎日少しずつ、気が付かないうちにふところから奪っていっているのです。
④創造性を奪う
お酒を飲むと物事を考えられなくなります。会社が終わり、飲み会に行き、酩酊状態になれば、自宅に帰ってやるべきことは眠ることだけです。大方の人間は会社や学校に多くの時間を奪われ、自身の自由な時間がほとんどありません。お酒を飲むことで、その自由な時間さえ、まともに使うことができなくなってしまいます。
本を読んだり、何かを作ったり、人と議論したり、新しい情報を得たり……といった、ただでさえ少ない創造的な時間をお酒は奪っていきます。③で書いたように、新しい投資に回すお金もなくなり、自己の成長機会を奪います。
もし、酩酊していないすっきりした思考をずっと維持できれば、さらに面白い何かに出会い、作り出せる可能性があがります。
⑤脳の萎縮を速める
一次的に酩酊させるだけでなく、脳の萎縮も早めてしまうようです……ソースは不確かですが、誰かが提唱するようなリスクをとってまで飲むものかなあと疑問に思います。
⑥癌のリスクが高まる
よく言われる通りです。あまり詳しくないので⑤と同じです……。体を害するということは、その人の将来を奪うのと同じ、⑤⑥は、さらっと言われてしまうことですがかなり重大なことだと思います。
⑦お酒文化を広めてしまう
あなたが誰かから勧められて飲む。それだけならいいかもしれません。しかし、それを見て、「自分も飲まなきゃ」と、さらに多くの人に飲酒するきっかけを作ってしまいます。嫌々飲んでいる人が、さらに嫌々飲む人を増やす……誰が幸せになっているのか……お酒を造っているメーカーだけですね。
誰かが飲み、それにつられて誰かが飲み、もしかしたら、今度は、望まない誰かにお酒を強要する立場を生んでしまう可能性があります。
自分だけでなく、大局に見れば、お酒という文化の維持に加担することになってしまいます。なんでもそうですが、メーカーが定着させた文化は、必ずしも人を幸せにするとは限りません。
まとめ
お酒は体をむしばむだけでなく、お金や時間など、その人が創造的活動に使うことのできる時間も奪ってしまいます。それだけでなく、それを「強いる」文化が定着してしまっているがために、さらに望まない人に飲ませて苦しませるというのが日常になってしまっています。
そういうわけで私は、一時的な気晴らしにはなるものの、基本的にお酒というのは、個人の成長を阻害してしまうし、一部の人を苦しめてしまうものだと思うのです。
お酒を好きな先輩が、お酒以外のことに目を向けてくれていたら、どんな面白いことをしいたんだろう、と、割と本気で考えます。
この記事を読んで、一人でも多くの方が飲酒のデメリットに気づいてくださることを私は祈っています。
【黒歴史】昔書いた小説を晒します②
こんばんは、ミズノです。
以前の黒歴史がわりと好評だったのでシリーズ化を考案しています。
今回のは森見登美彦をめっちゃ意識してますね……
「ナトリウム爆弾」
ミズノ
ナトリウムは、原子番号十一、質量数二十二、白色の固体である。金属であるのに柔らかく、ナイフで簡単に切ることができる。反応性に富み、大気中に放置しておくと大気と反応して発火するので、危ない。そのため、空気と反応しないように石油中に浸して保存する。私が高校生のときに読んだ化学の教科書にはそう記述があった。
しかし、日本の科学教育において良く批判される事例の通り、私が始めてナトリウムに触れる機会を得たのは、始めて授業で習ってから七年も後のことだった。私は高校を卒業し、化学に興味を持っていたので化学科のある大学に進学した、学部では楽しい三年間を過ごし、四年時には研究室に配属され、研究の門戸を叩くことになった。教科書に書いてあることが、たんなる文字の羅列ではなく実際にあるものなのだと知ったのは、配属が決まってしばらく経ったある日のことだった。
その日、私は研究室の実験装置の前にいた。ステンレス管の中の真空を維持するため、私は慣れない工具と格闘しながら実験器具をいじり倒していた。かたわらでは、私の指導にあたる先輩が、緊張した面持ちで私の作業を見守っていた。たぶん、私がいつ装置を壊すのかと、心配していたからだろう。
結局、目立ったミスもなく実験は無事に終わった。同時に先輩の緊張がほどけたようにほっと息を吐いた。
「友、今日の夜、空いているか」
ガラス機具を洗いながら、先輩が訊いてきた。私は、先輩から受け取ったガラス機具の水分を拭き取っては棚に戻す作業に従事していた。分担したほうが、はやく終わる。
「空いています」
「遊びに行こう」
そのとき先輩は、薬品庫から小さな小瓶を取り出して、ポケットに忍ばせた。
出町柳通り前のバス停で待ち合わせた。私がバス停に着いたとき、時刻は午後七時の数分前だった。観光地でもあるこの通りには、土産物屋がずらりと並び、観光客らしい人々がひっきりなしに行き交う。先輩は、バス停のすぐそばのベンチに腰をおろした。
「や、これ食うか」
先輩は顔を合わせるなりみたらし団子のパックを差し出した。近くお屋台で売っていたからだろう。
団子をほおばりながら通りを歩いて行くと、鴨川にかかる橋に出る。川沿いには、男女のペアが何組も、同じ距離を開けて並んでいる。これは鴨川等間隔の法則というのだと先輩は教えてくれた。たんなるゴシップなのに、そのときの先輩は、実験で用いる化学公式を説明する先生めいていた。
先輩は、鴨川等間隔の法則を教えるために私をここまで呼んだのだろうか。だとしたら少し迷惑だ。バス代も、往復でかかるし。
先輩は橋の欄干に手を置いて、川の上流を眺めている。川の上流にも下流にも、その岸辺には、しっとりと互いの時間を共有する一組の男女が、無限のかなたまで並んでいるように思えた。私はなんとなく腹が立ってきた。
先輩は、橋のたもとで談笑するカップルに目を向けた。そのとき、先輩の横顔は変にゆがみ、唇のすきまから白い歯が覗いた。先輩はカップルのほうを注視したままポケットに手を突っ込んだ。そこから取り出したのは、灰色の液体がつまったガラス瓶と、実験用のピンセットだった。
先輩はピンセットを指の間に挟んで両手を自由にし、ガラス瓶の蓋を開けた。すると、ガソリンの匂いがあたりに立ち込めた。ガラス瓶の中に詰まった液体を良く見ると、中には四角い物体が浮かんでいる。私が始めて本物の金属ナトリウムを見たのはこのときだ。
先輩は、ピンセットを使って慎重にナトリウムをつまみあげた。四角く切り取られたナトリウムは、一般的な金属のように、街灯の光を反射して金属光沢をしめしていた。ピンセットの先端で、白い煙が上がる、空気中で、ナトリウムが化学反応を起こしているのだ。
「友、良く見えてろよ」
先輩は白く煙る金属ナトリウムを、川に向かって放り投げた。
ナトリウムは、さきほどのカップルから近いところに着水した。男の方は、ぽとん、と何かが水につかる音に気付いた。次の瞬間、そこから数メートルほどの高さの水柱が吹きだした。
今、まさに彼の手を取ろうとしていた女の子は、立ち上がりかけて転んだ。男の方はいちはやく爆発を察知し、飛ぶように川から離れた。橋の上にいた人たちも、何が起こったのかと周囲を気にし始める。私は驚いて声が出なくなっていたが、川辺で体勢を立て直した女の子と目があってしまって、
「逃げるぞ」
ぼんやりしていた私を、先輩はぐいと引っ張った。夕闇の中をかけて、人混みの中に紛れてしまえば、もう追ってこられはしまい。
幸いにも、薬剤の無断持ち出しと不正使用は公にならず、誰にも咎められることはなかった。私は、ナトリウムの取り扱いについては、それ以降、特に注意するようになった。それが狙いだったのであれば、先輩の教育は実に適切だったと思う。
先輩は、その年に大学を卒業した。卒業後は研究からは遠く離れて市内にある会社に就職し、営業の仕事をしている。私は、大学院に進学した。今は、修士論文の完成に向けて実験データを蓄積している。忙しくなっていくにつれて、互いのために割ける時間は目減りしていったが、しかし私と先輩との付き合いはまだ続いている。
私がまだ学部生のころ、興味本位で他の学部の授業に忍び込んだことがある。先生は原子核物理を専門にしている人で、授業は核融合についての話だったと思う。ヒョロっとした眼鏡の、いかにも人の良さそうなおじさんだ。このおじさんの頭の中に、地球すらも一撃で爆破できるだけの知識が眠っているなんて、驚きだ。
ともあれ、その先生はこんなことを話した。
「核融合と恋愛は非常によく似ています。原子と原子は、互いに距離が遠く離れているときはエネルギー的に安定な状態で、互いに影響を及ぼしません。しかし、原子同士の距離が近づいていくと――人間にすると仲良くなっていくことに相当しますね――互いに引力が働き、相互作用によってエネルギーが上昇していきます」
先生は黒板に、なめらかに上昇していく曲線を描いた。
「そして、原子核同士が近づいていくと、あるところでポテンシャルによるエネルギーの総和が最大値を迎えます。そこからさらに接近して、原子同士が結合するとき、今度はエネルギーを外部に放出し始めます」
右肩で上昇を続けていた曲線は、山を描いて今度は下り始める。
「こうなったら、後は冷めていくだけです。燃え尽きないように、適宜燃料を投下して維持に努めなければならなくなります」
そして、先生は諦めるようにこう添えた。
「そして、そうなってからが、一番長いのです」
ほとんどの生徒は、講義を真面目に聞いていなかったし、私も飽きて途中から眠っていた。だけど、この話だけはやけに頭に残っている。
先輩は頭が良いかもしれないけれど、少し臆病なところがある――そのことが分かるくらいには、私は先輩との付き合いを長く続けている。
先輩は、相変わらずよく鴨川沿いを散歩する。私も隣に並ぶ。先輩の住むアパートは川沿いにあって、窓辺に座って外からの涼しい風に吹かれていると、外に出たくなってしまうのだ。
歩く途中、適当なお店に入ってご飯を食べる。先輩は忙しそうだけれど、それでも楽しそうだ。互いの近況を簡単に報告する。お互いにどんどん忙しくなって、滅私奉公とはこのことかとばかりに、自分や大切な誰かのために使える時間が減っていく。
夕食を終えた後、鴨川沿いに腰をおろして休憩した。鴨川等間隔の法則は、何度も見ているうちに見ていたら慣れてしまって、なんとも思わなくなっていた。
夜風に吹かれながら、橋の欄干に設置された街灯や、夜店の暖かい光を反射してきらめく川面を眺めていると、どうしようもない愛しさがこみあげてきて、思わず先輩の右手を握ろうとしてってしまった。人差し指の先に、ごつごつした固い皮膚を感じた。
そのとき、橋のほうから声が聞こえてきた。背の高い男が、橋の欄干に手を置いている。その後ろで女の子が立っている。街灯の光が逆光になって、顔や表情ははっきりしない。ぼんやりとした輪郭が分かるだけだ。
背の高い男は、片手に何かを持っているようだった。それはが強く光を反射して、金属めいた光を放っている。
男は、何かを川に投げ入れるようなしぐさをした。
ぽとん、と水音が鳴る。小石が投げ込まれたのかと思った、すると次の瞬間、私の視界を塞ぐような水柱が、水面から立ちあがった。私はとっさに逃げようとしたが、立ちあがるのに失敗して転んでしまった。
先輩は、すでに離れたところにいて、爆発の余波に揺れる水面を眺めていた。
「大丈夫か」
先輩は恐る恐るといった様子で聞く。大丈夫だったけれど、つい目をそらしてしまった。
そのとき、たまたま橋の上にいた女の子と目があった、と思う。遠目だし、欄干に取りつけられた街灯が逆光となって、表情はみえなかったが、シルエットだけでそれと分かった。彼女は、驚いて見動きが取れなくなっているように私には見えた。しかし、隣の男に引っ張られて慌てて駆けだした。
「ったく、なんなんだあいつら」
先輩は苛立たしい様子で言う。
しかし、私はその光景に、怒るのも忘れてつい見とれてしまった。
街灯の暖かい光と、行き交う観光客の間に消えていく二人の影をずっと眺めていた。
二人は、互いの手をしっかりと握って、美しい影絵のごとく夜の明かりの中を駆けていった。
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- 62.NPO法人に寄付する
- 63.100万円分の1000円札を東京タワーからばらまく
- 64.自費出版する
- 65.歯科矯正する
- 66.100万円をすべて50円玉に両替する
- 67.宇宙葬してもらう
- 68.渋谷の電光掲示板をジャックする
- 69.奨学金を返済する
- 70.100万円分の宝くじを買う
- 71.最高の男を抱く
- 72.テスラの株を買う
- 73.アマゾンの株を買う
- 74.グーグルの株を買う
- 75.国債を買う
- 76.100万円札の束にして道端に捨てる
- 77.海外に移住する
- 78.ゴールデンレトリバーを買う
- 79.ソシャゲに課金する
- 80.100万円分のハイパーボールとお香としあわせたまごを買う
- 81.iphone Xを買う
- 82.東京までの新幹線定期を買う
- 83.JTの株を買う
- 84.自前で文学賞を開催する
- 85.語学留学する
- 86.小説講座に通う
- 87.脚本講座に通う
- 88.100万円で見やすいブログデザインを外注する
- 89.仮想通貨に投資する
- 90.プラント製図2級を取得する
- 91.プログラミングを習う
- 92.100万円でジャンプの押しキャラに投票する
- 93.100万円分のマックハンバーガーを買う
- 94.うまい棒を1万本買う
- 95.100万円のギターを買う
- 96.100万円分の本棚を買う
- 97.100万円の万年筆を買う
- 98.無断欠勤する
- 99.滅茶苦茶いい望遠レンズを買う
- 100.貯金する
- まとめ
1.100万円分のおいしいもの食べる
⇒100万円の高級肉……とか? そういうのはヒカキンとかに頑張ってほしい。それに、できれば自分の経験として跳ね返ってプラスになることに使いたい
2.100万円分の本を買う
⇒1冊1000円として1000冊……数年あれば読み切れない量ではないが……でも人生では
それ以上の本を自分は本に使うと思う。
ちなみに、私のおすすめを全部買ったとしても10万円になりません。コスパのいい趣味だ……
3.100万円分沖縄に行く
⇒航空機10万円+土日一拍で1万円。ざっくりで8~10回は行けそう
そんなに沖縄行ってどうするんだろうって思った。
4.ピースボートで世界を一周する
⇒99万円で行ける、らしい。本当? それって、決めた後に車みたいに後からオプションで値段上がってく奴でしょ?
5.「深夜特急」を片手に世界一周する
⇒会社の後輩が、百万円で行けるって言ってた。だけどそれは大学生の時にやるべき。
6.コペン(車)を買う
⇒可愛い! 公道で見かけるとついじろじろ見てしまう。中古車で80万円くらい。
だけど7日中5日は徒歩通勤だから乗る機会ないんだけど……普通に維持費考えると赤字なんですけど。維持費高すぎて買う気になれないんですけど……
7. ブログをProにする
⇒本ブログは収益無いのでProにすると赤字。というか100万円分……?
8.100万円分のコンサルをプロブロガーにお願いする
⇒ウェブ運営で学ぶことはいっぱいありそう。が、100万円でコンサルしてくれる人いる? どういう契約で仕事依頼する? 私の向学心と誠意が試されそうだ。
9.100万円で有名絵師にイラストをお願いする
ちょっとアリだなって思った……ネットに貼るときの自画像とかね。いろんなパターンの奴とか依頼できそう。
10.100万円で好きな作家に掌編小説を寄稿してもらう
ありだなあ……めっちゃ読みたい。私の交渉力と人脈が試されそうだ。どうやら私は個別最適された創作物が好きなのかもです
11.風俗で最高の女を抱く
⇒終わった後に100万円分のむなしさが襲ってきそう
12.100万円分のレンタル彼女をレンタルする
⇒むなしいんだって! でも可愛い女の子とおしゃべりはしたい……職場は男しかいないし。
13.100万円分のレンタル彼氏をレンタルする?
⇒なにこれ?
14.100万円分のドンペリをキャバクラで頼む
⇒一夜限りのヒーローになれるぜ……激熱だな。でも私お酒嫌いなんです……
15.100万円分ホストクラブで楽しむ
⇒正直めっちゃ楽しそう。だが男だけの糞みたいなノリはもう結構です。
16.100万円を渋谷の女子高生に渡して自由に使わせる
⇒村上龍がやってたっていってた。本当……十代の可愛い女の子って最強。
17.株・FXをやってめっちゃお金増やす
⇒他の人の収益報告見てるけど普通にマイナス過ぎてあかん気がする
18.100万円分の有料notesを買いあさる
⇒本100万円分とあんまり変わらんよねえ……どっちかというと読む時間……
19.退職して気ままに暮らす
⇒100万円じゃ足りないぞ……
20.アイドルとのバスツアーに参加する
⇒私はアイドルはそれほど……
21.両親にあげる
⇒きっと断わられる
21.祖父の介護費用にする
⇒両親に断わられた……でも介護長引いたら必要になるかも
22.弟に車を買ってあげる
⇒だから車は負債だって……
23.100万円分のいいスーツを買う
⇒私服OKな会社なんですけど……
24.100万円分のいい服を買う
⇒ありかも。ていうか見た目をよくする系の投資って結構いいな。
25.凄くいい美容院に行く
⇒予約は何カ月待ちだろうか。
26.100万円で服選びをコンサルしてもらう
⇒そういうことやってくれる人いるかな? でもアパレル業界の人ってきらきらしてて若干苦手……
27.結婚指輪を買う
⇒気が早すぎるにもほどがある。
28.博士進学する
⇒年間の学費は50万円、3年間で150万円。足りないぞ……ていうか生活費はどうするんだ?
29.100万円分いいバーに通う
⇒武井壮のように楽しい会話を勉強するぞ! 飲み代よりも新幹線代のほうがかかりそうな予感。
30.100万円で同期飲みを主催する
⇒これ以上親睦を深めてどうするのか。
31.引っ越しする
⇒人生を変えるなら、場所を変えよ。全くその通りだが、今の家は会社から近くて通勤が楽なんです。
32.転職する
⇒でもさ、仕事なんて結局どこに行っても同じだと思うんだよね。
33.100万円のいいパソコンを買う
⇒ありかも……起動めっちゃ早いしサクサク動くし、QOLは爆上げしそうな予感。でもゲームやらないしなあ……2画面ディスプレイとかかな。文章書くとき役立ちそう。
34.100万円のいい椅子を買う
⇒座り作業多いからこれもいいかも……誰かいい椅子教えてください
※2020/1/20
10万円の椅子を買いました。
35.コンビニオーナーになる
⇒転職と一緒だよね? ていうか販売と営業職は君には向いてないと思うよ? ていうかこれ、お金っていうより人生の問題だよね?
36.飛行機のファーストクラスに乗る
⇒で、どこに行きたいの?
37.新幹線のグリーン車に乗る
⇒ささやかすぎる……
38.最高級ホテルのスイートに止まる
⇒記事ネタとしては超有能な予感……財力のあるYOUTUBERとかがやってくれそう。
39.薄毛外来に通う
⇒親父と祖父がねえ……遺伝的に私もヤバいと思うんですよ
40.ライザップに通う
⇒私凄くひょろひょろなので、筋肉ある人に憧れます。ちょっとありかも……でも普通に百万円かからないよね?
41.いい机を買う
⇒椅子と同様。今思いついた。なんだか関連するアイデアが時間差で出てくる。
42.臨床心理士の資格を取る
⇒人の心に興味があります……お金っていうか時間配分の問題だなって思った。
43.教員免許を取る
⇒時間確保だなあ……
44.100万円の財布を買う
⇒男としてワンランク上に見られることができるぞ。
45.100万円の時計を買う
⇒オメガ? ロレックス? グランドセイコー? でも私、時計はスマホで十分だと思っています。
46.船を買う
⇒まさにお金持ちの趣味。停泊料とかで後からゼエゼエ言うことになりそう。
47.バイクを買う
⇒ていうかさ、買っても乗る機会全然ないじゃん! 7日中5日は仕事で、しかも徒歩なんだって!
48.遊園地を貸切る
⇒子どもだったら超歓喜だなあ……
49.全身脱毛する
⇒朝が楽そう。でも脱毛って悪影響ないんだろうか
50.全身整形する
⇒福山雅治にでもなれば人生変わりそうですね?
51.熱海に別荘を買う
⇒100万円で買える物件があってビビった……でも遠すぎていかない
52.100万円分CDを買って握手会に参加する
⇒だから私はアイドルはそれほどだってば……
53.打ち上げ花火を上げる
⇒1発55万円で上げられるらしいです……
54.鎌倉市ビーチのネーミングライツを買う
⇒別に宣伝したいものとかないし……
55.防災シェルターを買う
⇒めっちゃ邪魔そう。家族ができたら考えるかもだけどさ……
56.100万円分ディズニーランドに行く
⇒行く権利よりも一緒に行く人が欲しい状況です。
57.100万円の布団を買う
⇒ありかも。睡眠は1日の1/3を閉める重要な行為……QOLめっちゃあがりそう
58.100万円の枕を買う
⇒あり。もう頭を付けたら起き上がれないような奴……え? 布団と枕に50万円ずつ使えばいいって? つまらん奴だなあ……
59.100万円のベッドを買う
⇒100個考えるのきつくなってきた……
60.100万円分をパチスロにぶち込む
⇒いくらになって返ってくるかな……?
61.100万円分の馬券で大穴を狙う
⇒潔い! めっちゃかっこいい! だけど私は遠慮したいです……
62.NPO法人に寄付する
⇒多分今まで出てきた中で一番尊い。だけど私は嫌な人間なので自分のために使いたいのです。
63.100万円分の1000円札を東京タワーからばらまく
⇒映画的シーンに胸熱が止まらない……1000円札のほうがたくさんでいいでしょ?っていう発想。普通に都条例違反。
64.自費出版する
⇒ネットで公開できてるしなあ……
65.歯科矯正する
⇒ちょっと歯並び悪いんですよねえ……ありかもって思った。
66.100万円をすべて50円玉に両替する
⇒「50円玉の謎」で検索だ!
67.宇宙葬してもらう
⇒100万円で遺灰を宇宙にあげられるんだって……へえー……私はいいや。
68.渋谷の電光掲示板をジャックする
⇒お金持ちの有名人とかが恋人のためにやりそー……そう考えると結構普通だな。それに静岡住みだし。
69.奨学金を返済する
⇒今その話は止めよう
70.100万円分の宝くじを買う
⇒買った時の妄想がはかどりそうだが……
71.最高の男を抱く
⇒新しい世界を開拓するのか……?
72.テスラの株を買う
⇒イーロン・マスクのビジョンはめっちゃ夢があるよね……正直ちょっとありかも。私にも彼の夢の一部を見せてほしい。
73.アマゾンの株を買う
⇒もはやインフラ化してるし、世界の覇者に早めに媚を打っておくのも……
74.グーグルの株を買う
⇒グーグル、というかアルファベット。まあこれもアマゾンと同様。
75.国債を買う
⇒安定を求む。果たして本当に安定なのかは知らない。
76.100万円札の束にして道端に捨てる
⇒次の日の地方ニュースが楽しみですね!
77.海外に移住する
⇒100万円で一生暮らせる国とかあるんかな……? でも私はまだ日本でやりたいこととがあります。
78.ゴールデンレトリバーを買う
⇒めっちゃ可愛い。めっちゃかっこいい。ウィンディ好きの私には激熱。だけと今住んでる場所ペット禁止なんです……。それにいろいろ考えると100万じゃ普通に足りないよね? 食費凄そう。
79.ソシャゲに課金する
⇒もうやってる人いそう。というか私はソシェゲやってない。いや……
80.100万円分のハイパーボールとお香としあわせたまごを買う
⇒ポケモンGOに全部つぎ込むという選択肢。でも最近はあんまりやってません……
81.iphone Xを買う
⇒つつましい……なんというか、固定費が上がるだけのお金の使い方はやめておきたい。
82.東京までの新幹線定期を買う
⇒ありかも……文化の中心地に毎週気軽に行けるのは結構いいと思うんですよ。東京から浜松は、3カ月で53万円……。毎日行くならともかく、土日だけなら切符のほうが安いですね……普通に意味なかった……
83.JTの株を買う
⇒なんと配当5%…100万円買えば翌年には105万円。実際は1株の値段とか配当率もうちょっと低かったりで、毎年3万円のお小遣いもらえるイメージ……ありかも
発想がちょっと保守的になってきました。
84.自前で文学賞を開催する
⇒名付けて「ミズノ文学賞」私の独断と偏見で選び、優秀作には100万円!ちょっとありかもって思った。面白い話読みたいし。
85.語学留学する
⇒なんかOLみたいだな。人生かけた決断だ……! でも語学だけじゃ役に立たないよね? 海外ブロガーとして一発狙ってみるか?
86.小説講座に通う
⇒100万円あれば5年くらいは通えそう。宮部みゆきも講座出身って言ってた……私も創作力を身に着けたい。かなり真剣に迷うところ
87.脚本講座に通う
⇒迷う! ていうか、この小説とか脚本の書き方って本当に講座で身に着くものなのかな……? もしお金になるなら講師の人だって自分で書くよね……? つまり……?
88.100万円で見やすいブログデザインを外注する
⇒めっちゃ見やすい! めっちゃ集客できるブログにするぞ! でも自分でまずは試行錯誤していきたい。
89.仮想通貨に投資する
⇒まだ仮想通貨やってないの? とか言われそう。でもこれ本当にリターンある? やっぱ形は違えどギャンブルだよねえ……競馬とかとかわなんいじゃんいや、でもVALUとかに使えるし……
90.プラント製図2級を取得する
⇒……仕事の資格ってことです。夢ないけどめっちゃ役に立つぞ。でもお金よりも時間的な制約のほうがきついか。
91.プログラミングを習う
⇒今の時代これくらいは……でもやっぱりこれも、お金よりも時間的リソースの振り分けの問題だ。
92.100万円でジャンプの押しキャラに投票する
⇒ニセコイの「Yさん」を、私はちょっとだけ尊敬しています。
93.100万円分のマックハンバーガーを買う
⇒めっちゃ迷惑……そんな在庫ないやろって思った。
94.うまい棒を1万本買う
⇒1万円で1000本買えば、ビジュアル的なインパクトは十分だと思うんです……
95.100万円のギターを買う
⇒欲しいけど実は弾けない……いや、これで奮起するかも
96.100万円分の本棚を買う
⇒巨大な書斎は実は私の夢です……でも買うのより維持が大変そう、とか思ってしまう。
97.100万円の万年筆を買う
⇒すごく大切にできそう……だけど今まで生きてきて万年筆使う機会はほぼなかったです……
98.無断欠勤する
⇒100万円分休む。ただし、周囲の迷惑や信頼失墜を考えれば損失は100万円相当では済まないので駄目です。
99.滅茶苦茶いい望遠レンズを買う
⇒今のカメラは倍率が良くなくて……ううん…つつましいな
100.貯金する
⇒「このゆとりめ!」とか言わないでほしいです……
まとめ
いろいろやりたいことはありましたが、私的には、クリエイターさんに仕事を依頼する/自分自身が何かを作れるような投資をする(後は睡眠)みたいな、自己投資がしたいなと思います。どちらかというと、私のやりたいことは、「お金」よりも「時間」がネックになっていると感じます。
みんな「ほしいものがない」といいます。けれどそれは実は違って、本当は「手に入れるのに時間がかかる」ものをほしがっているんじゃないかなと、私は思います。でもそれっていいことですよね? 努力したいってことなんですから。
終わりです。
「小説の書き方」「プロットの作り方」に悩むすべての人へ! エドガー・アラン・ポー「詩と詩論」の「構成の原理」が目から鱗すぎたのでありとあらゆる人に紹介したい
面白い物語はなぜ面白いのか?
読む人・観る人・書く人みんなが死ぬまで抱え続ける問題です。
それがわかれば、最小の労力で最高の作品ができ、みんなハッピーに……そのためには、個々人がそのノウハウを会得し、そして共有していく必要がある!というのが私のひそかな主張です。
今回紹介する本は、私の主張を裏付けてくれ、そして創作に携わる人すべての目から鱗が大量に流れ落ちるであろう一冊です。
- 作者: エドガー・アラン・ポオ,福永武彦
- 出版社/メーカー: 東京創元社
- 発売日: 1979/11/23
- メディア: 文庫
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1.エドガー・アラン・ポーという史上最強の作家について
エドガー・アラン・ポー(Edgar Allan Poe、1809年1月19日 - 1849年10月7日)は、アメリカ合衆国の小説家、詩人、評論家。(wikipedia抜粋)
コナン・ドイル、江戸川乱歩は超有名ミステリー作家ですが、彼らの作品はポーなくして生まれませんでした。巷にあふれる探偵物語の源流はすべてこの人です。
ジャンルに捕らわれないマルチクリエイター
「黒猫」「黄金虫」「大鴉」……著名な作品を数多く世に送り出し、SF、ホラー、恋愛と、ありとあらゆるジャンルを横断して活躍した作家です。
つまり凄い人です。
2.ポーの主張
この本の「構成の原理(本文p.220~)」という章で、ポーはこう述べています。
どんな作家でもいい、自分の作品のうちどれか一つが完成するまでの過程を逐一詳述する気になれば(というのは、それができれば)、大変興味深い雑誌論文が書かれるはずである。 (ポオ 詩と詩論 p.221)
雑誌論文とは「まだ学術的にまとまっていない新しい発見を報告する」ものです。つまりポーは、「小説・詩の書き方は、まだあまり研究されていない分野だ」ということを言っているのです。
続けて、ポーはさらに考えます。
そうした論述がなぜ公刊されないのか。ぼくにはなんとも言えないが、恐らくは作家の虚栄心が他のどんな理由にもましてそのことと関係しているのであろう。大抵の作家、殊に詩人は、自分が一種の美しい狂気というか、忘我的直観で創作したと思われたがるものだ……(中略)
九十九パーセントは文学的俳優の小道具であるものを、読者に覗き見されることに怖気をふるうものである。(p.222)
1846年の文章ですが、それから150年以上経った今も通用する鋭い洞察です。
さて、そんなブーメランをぶん投げたポーは、自作「大鴉」は直感でないと述べたのちに、こう宣言します。
すなわちこの作品(=大鴉)が一歩一歩進行し、数学の問題のような正確さと厳密な結果をもって完成されたものであることを明らかにしたいと思う。(p.222)
なんと! ポーは、自らのノウハウをすべて公開するというのです!
つまりこれは、 「ポーの創作過程を詳述した学術論文」であり
映画脚本、小説、漫画、ライトノベル……そのすべての骨格となる「構成」について、世界中の誰もが認める天才作家が教えてくれる。
そんな本です。
3.「大鴉」を書く前に、ポーが準備したこと
長さの選択
ポーは「効果の統一」「印象の統一」が重要であり、長くなるとそれが損なわれると主張します。そして「ロビンソン・クルーソ-(長編小説です)」を例に出し、「統一的効果を必要としない作品」では一気に読み切れる長さの限度を超えることは有利かもしれないが、詩作ではそうではない、と述べます。
ポーは短い作品を好んで描く作家ですが、長編小説がメインの時代にはちょっと適応の難しい主張です。ですが、長編というのも短いシーンの連続であり、長編を書こうとする人も、
「読者が一気に読める長さ」を常に意識し、その中でどういう印象を与えたいか? を決めておくといい
のでしょう。そういえば、小説家になろうでも
「一章は二千文字から三千文字!」
という説が流布されていますね。
長編小説が総体として読者に与える影響については述べられていませんが、「次の章どうしよう?」という迷った時には、役に立つ考え方と思います。
効果の選択
ポーは、自作を読んだ読者が何に感動したかを分析し、ざっくり四つに分類します。
「真理」「知性の満足」「心情の興奮」「美」
「長さの選択」であったように、読んだ人に与えたい印象を、自分の中で明確にせよとポーは言います。
この四つが何を指しているのか本文中ではつかめませんが、私見を交え、現代小説に当てはめるとこういうことだと私は考えます。
「真理」……読者の価値観を揺さぶるメッセージを与えて印象付ける
「知性の満足」……珍しい仕事を題材にしたり、謎を解決することで印象付ける
「心情の幸福」…悲しみ、恐怖、幸福等の感情を与えて印象付ける
「美」……文章を読んだリズム感、美しい風景描写で印象付ける
つまるところ「読者にどういう気持ちになってほしいか? どういう印象を受けてほしいか」を、書く前に明確にするのですね。
ポー自身は、「美」が最も重要であとは補助だと考え、そして「美」を伝えるための最適な長さは100行、とします。
実際の大鴉は108行。その通りになっている。ポーは、書き始める前に、こういった大枠を立て、自分の伝えたいものを明確にしているのですね。この考え方は凄く良くて、
何を書けばいいかわからない人の救いになる
と思います。「読者にこういう感情を抱いてほしい」という大枠を決めておけば、「類似作品や自分の身の周りから拾ってくる取材・題材に<あたり>が付けられる」と私は思いますし、ポーもそれに近いことをしています。
エピソードや人物が先にあるのではなく、読者に与える印象を考えてから、それに見合ったエピソードや人物を選ぶということ。書くことが思いつかない時の、一種の指針になるのではないでしょうか。
4.ここから実作……と行きたいが
ここから、詳細な文章や、登場人物の性別、性格、境遇……など具体的な詳細検討に入っていきます。
ここからは、「大鴉」を読んでいることが前提となり、また細かい検討が増えていき、このブログではなかなか詳述することが難しいです……
ただし、2.~3.を決めておき、自分の伝えたい何かを明確にしたおかげで、エピソードや人物の選定が容易になる、ということが凄く伝わってくると私は感じました。
詳細が気になる方はぜひ書籍を、と、ダイレクトマーケティングをお許しください。
終わりです。
PS
ちなみに、「効果の統一」ができている(はず)の話がこのブログ内にもあります。
乙一とか宮部みゆきの短編なんかも参考になるんじゃないかな、私の好きな本は短編が多いです。
youmizuno.hatenablog.com
後こいつも、映画のわりに短くて、「効果の統一」の一例になると思った。
【黒歴史】昔書いた小説を晒します
「花火はみえない」
ミズノ
1.
どん、とおなかの底に響くような低い音で目が覚めた。眼のふちをこすりながら起き上がると、今度は三つに連なった音が空気をかすかにふるわせた。私はベッドから降りて、流しにおいてあったコップに水を注いで一気に飲み干した。喉を流れる冷たい水は、うだるような暑さに火照る体から熱を奪って滑り落ちていく。
流しにコップを放り込んで、小さなベランダに面した窓から外を覗いた。今年は花火なんて見ないと決めていたのに、いざ始まってしまったことがわかると、あのはじけては消えていく光の群れを妙に恋しく感じた。三階分の高さは十分に思えたけれど、花火は見えない。遠くに立つビルが邪魔をしているからだ。
私は失望とともにベッドにもう一度倒れこんだ。自分の体温が残った布団と、熱気をはらんだ大気に包まれてもう一度目を閉じたところで、枕元に置いたスマートフォンが着信を告げた。手に取ってボタンを操作する気になれなかった。「相良日名子」の名前とともに電話アイコンが揺れるのをぼんやりと眺めていると、規定の一分が過ぎたところで着信音が止まった。小さな画面から放たれる強い光が消えて、薄暗い闇が再び私を取り囲んだ。
部屋の隅にかかった時計を見ると、もう七時を過ぎていた。時計を眺めていると、急に現実感が沸いてきて、一つだけ思い出した。自分の能天気さに、思わず苦笑してしまいそうになる。
まだ、夜ご飯を食べていなかった。
2.
外に出て歩いてみると、少しだけ気分が晴れた。夜空にはうっすらと雲がかかり、風が吹くたびに月の光が明滅を繰り返した。夜道にはいつもよりも人通りが多い。きっと、花火を見るために外に出てきたのだろう。中にはカップルの姿もある。鮮やかな浴衣姿が、Tシャツにジーンズというラフな格好と並んでゆっくりと歩いている。顔を見合わせたとき覗く横顔は、どことなく幼い笑みをたたえている。高校生くらいだろうか。大学二年生の私はもう、彼らの後ろ姿をまぶしく感じる。人は一年に一歳ずつ年を取っていくけれど、一年の長さはいつも一緒なわけではない。二十歳の誕生日は大きな喜びと、そして小さな絶望と一緒にやってきた。これからは、少しずつ喜びの比率が小さくなっていく、そんな予感がしていた。
彼らはちょっと立ち止まったと思うと、駆け足で道路を横断してコンビニに入っていく。私は思わず、逃げるみたいに彼らに背を向けていた。認めたくなかったけれど、私はこれ以上、あのきれいな浴衣を見たくなかったのだ。
「花火を見に行こう」
前沢明人は、自分の口にしたことを、ほんの些細なことまできちんとやってくれる人だった。一緒に花火を見に行くこと、それは難しいことでもなんでもない。きっと、そのうち私を誘ってくれると思っていた。けれどその約束は果たされなかった。
前沢から別れを切り出されたときの私は、驚きも悲しみも感じなかった。私が一番初めに思ったことは、花火を見に行く約束はなかったことになるんだな、なんていう場違いなことだった。
一枚の美しい写真を火にくべたみたいに、私の想像の中の風景が灰になって消えていく。前沢は、一目ぼれしたと言った。馬鹿みたいな言い訳だと思いながらも、私は神妙な表情を繕ってゆっくりと頷いていた。それどころか私は、
「応援する」
なんて、心にもないことを口にしていた。あっさりと関係を断ち切ったふりをしたのは、前沢が、ほんの少しでも自分の決意を後悔してくれればいいと思ったからだ。けれど、私の考え方はどこまでも浅はかだった。
「ありがと」
そう口にした前沢の表情は、ほっと安心したように緩んでいた。あ、後悔はしてくれないんだ、今、失敗したんだと、私はすぐに気がづいた。
前沢はゆっくりと立ち上がると、私に背を向けて部屋を出て行った。
私は涙を浮かべでもして、後ろから抱きつきでもすればよかったのか、そうすれば前沢はもう一度こちらを振り向いてくれただろうか。そんなことは私にはできそうになかったけれど、あの時点では少しだけ可能性のあった別の世界を、私はつい夢想してしまう。
3.
「どうなさいましたか?」
レジの店員さんは、きょとんとした表情を浮かべて私のほうにレジ袋を差し出していた。私は小さくすみません、とつぶやいてレジ袋を受け取ると、逃げるようにしてコンビニの自動ドアをくぐって、冷房の効いた室内から外に出た。もう一度、夏夜の熱気が私を包み込んだ。
夕ご飯を買いに出ただけなのに、思ったより遠くまで歩いてきてしまった。近くの交差点には信号がなくて、何人かの警備員の人が赤色のライトで車と人を誘導しているのが見えた。さっきより、ずっと多くの人や車が行き来していた。もう少し歩けば、花火が見える堤防に出られるのだ。
私は人だかりの背を向けて、もと来た道を引き返した。背後から、どん、という低い破裂音と、にぎやかな話し声が私を追い立てた。下を向いて歩いていたから、目の前から誰かが歩いてきたことに気付いたのは、視界の片隅に見覚えのあるサンダルの柄が見えてからだった。
「来たんじゃん」
耳に心地いいよく通る声は、少しだけ笑いを含んで揺れていた。子供のいたずらを見つけたみたいな笑みを浮かべて私を見上げていたのは日名子だった。
日名子は大きく一歩を踏み出すと、すれ違いざまに私の手首をつかんだ。そのまま速足で歩きだすから、私は抵抗する間もなく、小さな背中に引っ張られて歩きだした。
「行こう、早くしないと終わるよ」
やわらかい素材のサンダルが、歩くたびにぺたぺたと間の抜けた音を立てた。ずっと一人でいたから、話の仕方さえ少しぎこちなくなる。
「ごめん、電話、くれたのに」
「え、何? 聞こえない」
堤防に上がる緩やかなスロープを歩く。ここを登り切れば、もう見えるのだ。日名子はまだ私の手首をつかんでいたが、痛い、とつぶやくと離してくれた。日名子は、また速足で私の前を歩く。
「あのさ」
前を向いたままでも、日名子の声はよく聞こえた。
「茅野の良さがわかんない奴なんて、みんなクソヤローだよ」
最初は何を言われているのかわからなかった。数秒経って、日名子がずっとその話をしようとしていたことにようやく気が付いた。
「私も悪かったんだよ。気づかないうちに、嫌なことをしてたのかもね」
日名子は考えた風に私のほうを眺めていた。それから、
「茅野は悪くない」
根拠なんて一つもない主張なのに、その一言は私の心をすっと軽くした。こういう時、私はこの小さな背中が友達でよかったと思う。
「前沢が悪いってことにしとこう」
私たちはもう堤防の上に出ていたた。遠くで、見覚えのある四・五人の集団がはしゃいでいるのが見えた。そのうちの一人が、私と日名子に気付いて手を振った。
「でも」
私はこの期に及んでも、まだ善人のふりをしてふるまうことばかりを考えている。
ひゅうう、と、花火の玉が笛のような音を奏でて宙へ放たれた。堤防にいる人たちはみんな一斉にその音に耳を傾けて、一瞬の静けさが周囲を覆った。
「少なくとも、今くらいはいいんじゃない」
今までで一番大きな爆発音が、私の体を震わせた。うっすらと残るまっすぐな軌跡の先で、色とりどりの火花が勢いよく飛び散り、巨大な炎の花を夜空に咲かせた。
周囲からは小さな歓声と拍手が巻き起こる。私は、滑らかな曲線を描いて夜空に消えていく火花の軌跡をずっと眺めていた。
日名子も夜空を眺めていた。ずっと黙っていたと思ったら、ふいに私のほうを向いて、
「終わっちゃったじゃん、茅野が早く来ないから」
文句を言う日名子に、私はごめんと謝った。茅野のごめんは信用できないからなーとぼやく。果たしは思わず、自分の頬が緩むのを感じていた。
「また来年も、来よう」
そう私がつぶやくと、日名子は、はっとしたようにこちらを見て、それから歯を見せて笑った。
「来年は、ちゃんと電話でてね」
ごめんって言ってるのに、と、私は勝ち目のない反論で応戦する。日名子は私の話をもう聞いていなくて、遠くではしゃいでいた友達たちに大声で何か叫んでいた。
「行こう、これから宅飲みするから」
日名子は足早に彼女たちのほうに歩いていく。私はその後についていきながら、もう一度夜空を見上げた。
今年は花火なんて見ないと決めていたのに、最後の一番大きな一発をこの目に納めてしまった。その余韻は、心に強く刻まれて消えそうにない。
今この瞬間に肌に感じる暑さを、目に移った風景を、心のどこかでくすぶるどうしようもない気持ちを、何年、何十年たった後も、何度でも、鮮明に思い出すことができると私は確信していた。
果たされない約束、浅はかな策略、鳴り続ける着信音、夏の夜のうだるような暑さ、夜空に向けて打ち上がる軌跡、楽しいことや、嬉しいこと、悲しいこと、辛いこと、すべてを夏の夜空に打ち上げて、花火は色とりどりの光を放つのだ。
早くー、と遠くから呼び掛ける声に急かされて、私は慌てて駆け出した。
「君の膵臓をたべたい」を読んだ私は、桜良が可愛すぎてもだえ死にそうになった
私は恋人の病死する話が苦手だった。多分、その根源は、かなり昔に大ヒットした「恋空」の影響があると思う。「恋空」はいわゆるケータイ小説として大ヒットし、映画にもなり、そしてその女子高生(中学生?)の妄想の具現化とも言うべきストーリーから、一部のネット界隈では格好の悪口ネタとして有名だった。
無菌室でキスするとかヒロインヤバいわみたいな正論とか、後は、作者の都合で死んでいく恋人を茶化した発言が多々あり、良くも悪くも素直だった私はそれを真に受け、こう考えるようになった。
「愛する人の死は、作者が自己陶酔するための道具であり、非常に気持ちが悪いものだ」
ちなみに私は恋空を最後まで読んでさえいない。なぜそこまで恋人が死ぬ設定に嫌悪感を覚えていたのか、つい最近まで私は、ヒロインが死ぬ系の予感のある話を、なんとなく避けていた節さえある。
そして三年前、「恋空」を彷彿とさせるシチュエーションで、ウェブ発信のある小説が大ヒットした。
- 作者: 住野よる
- 出版社/メーカー: 双葉社
- 発売日: 2017/04/27
- メディア: 文庫
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今も各種メディアミックスで話題になり続ける、「君の膵臓をたべたい」だ。
恋人が死ぬ系小説は何度でもよみがえり、定期的に話題になるのか……そう呆れていた私は初めから興味を持っていなかった。が、たまたま手に取る機会があった。
実家の本棚に「君の膵臓をたべたい」があるのを見た私は、怖いもの見たさかほんの気まぐれか、話題になる小説がどんなものかとふっと興味が沸き、そして、
あれ? 結構面白いじゃん、
と、余裕で読んでいて、後半でちょっと泣きそうになったのだ……
そうして私は、手首をねじ切らんばかりに手のひらを返したのだ。
自分に酔いすぎない主人公
この物語に私が入り込めたのは、主人公自身が、物事に対して努めて冷静であろうとしてたからだと私は思う。彼女の病気に、わざとらしい憐憫や憐れみをかけず、そんな彼女と秘密を共有することにも特別な感情を抱かず、目の前の出来事を淡々と語っていく。
その視点から見えた景色は、主人公の思いをできる限り通さず、そのまま我々への問いかけとなる。
「こういうことがあるけど、読んでるあなたはどう感じる?」
と。
冷静で、高校生のくせになかなか安定した語り口。気の利いた会話もできて、物語の最後まで一緒するのに、私は苦痛にならなかった。
ただ、本人からはだいぶやる気のない感じがする。
桜良という最強のオフェンス
自分からは全く動き出さず、ろくなリアクションもしようとしない主人公が「超ディフェンス型」とするならば、ヒロインの桜良はまさにその対極を行く存在である。元気はつらつで人気者、止めなければたわいない話や不謹慎なジョークを延々に続けているであろう彼女は、「超オフェンス型」だ。主人公からなんとしても感情を引き出そうとするヒロインと、ずっと自らの冷静さを保とうとする主人公。彼女が最後の願いを実行していったのは、自分の願いをかなえていくためだったと思うのだけれど、それと同時に、一ミリでも主人公の冷静さを突き崩してやりたかったからだと思うのだ。
主人公は、桜良の繰り出すにぎやかで色鮮かな楽しみや誘惑を極めて冷静に受けていくが、対する桜良は次々と新しいアイデアを思いつき主人公を試していく。
主人公と桜良が出会い、そして主人公が病気のことを知った時から、二人の戦いは火ぶたを切って落とされた。共病文庫は、偶然にも桜良から主人公に手渡された聖なる剣のように、私には見えた。
こんなイメージ。
全く悲壮さを感じさせないストーリー
こんな好敵手である二人だが、ひとつ、大きな共通点がある。それが、
死に至る膵臓の病に全く動じない
ところだ。
それどころか、桜良に至っては面白がって自虐的なジョークを飛ばしたりする。後半には主人公も悪ノリで同調してしまうほどだ。
これがきっと、この作中において二人を結びつけた一番大きな要素だと思う。二人とも、それくらいのことでは動じないような、確固たる物事への態度を身に着けていたのだ。
正反対だけど軸は持っている。そんな二人が、お互いに興味を持っていくのは凄く自然なことだ。そこには、ヒロインの友人も元恋人も横やりすることを許されない。だから、彼女の元恋人はあっという間に主人公の目の前から排除されてしまうのだ。
二人の間にあるのは恋愛感情でも友情でもなく、「主人公と桜良」との関係、としか呼べないような、固くももろくもない、それでいて死でさえ断ち切ることのできない不思議な絆なのだ。
不覚にもちょっと泣けた
軸をしっかりもった明るい桜良、強く感情を動かすまいといつも冷静な主人公。その二人の間で交わされる気の利いた会話、友人でもなく、恋人でもない不思議な関係に、時に楽しくなり、時に緊張し、時に胸が締め付けられる。テンポよく進んでいく展開に身を任せているうちに、ふいに物語はエンディングへと走り出す。
いつも明るい桜良がふいに寂しい様子を見せ、無感動な主人公は桜の思いに打たれ、ずっと保っていた心の仮面にひびを入れられる。
この物語中、いかにも正反対の態度を保っていた二人は、最後の最後で、相手が自分には持っていなかったものを持っていたことに気が付くのだ。陰と陽が混ざり合って一つになり、気丈な二人が互いへの思いを吐露し、主人公の意識が内側から外に向かう変化するのを見て、私はふいに目の奥が熱くなってしまったのだ。
病気で死ぬから可哀そう? 悲哀に茫然とする自分に酔っている? 馬鹿を言うなと過去の自分を叱ってやりたい。この話は、出会うべくして出会った二人が、お互いのことを深く理解していく過程を描いた、心の成長のお話しなのだ。
まとめ
登場人物の会話は軽くて気が利いていて楽しい。それでちょっと含蓄あるのがいい感じ。読みやすい文章で、話はテンポ良く進む。後半ではふいをついて調子が変わり、率直に言って私は感動した。
読み終わった後には、外に関心を向けて広い世界に歩いていきたい気持ちになる、さわやかで楽しい青春小説だ。
……不覚にも泣きそうになった私はかなりチョロい人間なんだろうか?
明日から劇場アニメ映画も。一発ヒットしたからには売りつくすぜ! という強い気概を感じる。
※追記
たべたい、は漢字じゃなくてひらがなだった……
※追記その2
最高の恋愛映画はこの記事でも紹介していますよ!